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妊娠中のストレスが胎児に与える影響

妊娠中は心穏やかに過ごしたいと思うものの、なかなかそうはいかないのが現実。急激な体の変化にとまどったり、赤ちゃんが無事に生まれてくるか不安になったり。妊娠前のように自由に動けないこともあって、ストレスがたまりがちです。よく、「妊娠中のストレスは赤ちゃんに影響する」と言われますが、本当なのでしょうか?
今回は、東京女子医科大学産婦人科教授・松田義雄先生に、ストレスの胎児への影響や、妊娠中にできるストレスケアについて伺ってきました。

松田義雄先生

東京女子医科大学産婦人科教授、母子総合医療センター母体・胎児科長。専門は周産期医学。鹿児島大学医学部卒業。鹿児島市立病院産婦人科、東北大学医学部麻酔科を経て、平成元年から2年間、カナダ西オンタリオ大学医学部生理学産婦人科に招聘研究員、客員講師として留学。『新女性医学大系』『新米ママの妊娠・出産の?に答える本』など、著書多数。

胎児への影響を伝える、海外のストレス研究

日本では、妊娠中のストレスについての問題があまり積極的に扱われていません。動物実験のデータがあるだけで、実際のところお母さんのストレスが赤ちゃんにどう影響するのか、まだよくわかっていません。胎児のときからずっと見続けて、データベースをもとに証明していくというシステムの構築が進んでいないのです。

しかし、海外には多くのデータがあり、最先端の研究では、妊娠中のストレスが及ぼすさまざまな影響を伝えています。たとえば、ストレスの強い仕事、離婚など大きな人生経験をすると自然流産のリスクが増え、地震や内戦下では早産、低出生体重児が増えるとしています。また、妊娠中のストレスの影響は、赤ちゃんが成長したあとの精神的疾患にまで関与しているのではないか、という報告もあります。

じつは、日本ではこの20~30年の間に胎児の平均出生体重が約200gも低下しています。さらに、2500g以下で生まれる低出生体重児が増えているという(1993年6.7%、2004年9.4%)、先進国では例をみない問題を抱えています。発展途上国であれば母体の栄養不足が原因と考えられますが、日本では、若いころからの過度なダイエットや厳しすぎる妊婦の体重管理などによる肉体的ストレス、また、現代社会の抱える精神的なストレスなどが原因ではないかと疑われています。ストレスの話は決して無視できる話ではないのです。

しかし、このような話をして危惧するのは、「妊婦にストレスがあると低体重児になる。生まれてきた赤ちゃんが大変なことになる」というネガティブな情報だけが一人歩きすることです。あくまでも、「ストレスの影響する可能性がある」という話であり、考え過ぎるとそれ自体がストレスになってしまいます。

大切なことは、ストレスの影響について正しく知り、赤ちゃんへのリスクをどう防いだらよいのか、その方法を前向きに探っていくことだと思います。

慢性的ストレスで、胎児が栄養不足に!

妊婦にとって、ストレスはなぜよくないのか。簡単にいえば、ストレスには血管収縮作用があるから困るのです。そもそも、人間はストレスという外敵を感じると緊張状態になり、アドレナリンなどのホルモンを放出しながら戦闘態勢で身を守ろうとします。このとき、血液は外敵と戦うために最も重要な心臓や脳などに優先的に送り込まれ、胃や腸などの消化器などは後回しにされ、血流量は低下します。子宮も後回しの臓器のひとつなのです。

胎児は、お母さんの子宮に流れている血液から胎盤を通して栄養を取り込んでいますから、血流が悪いと栄養不足に陥ります。この状態が続くと胎児の発育が悪くなってしまうのです。

また、ストレスがあると、いわゆるストレスホルモンの一つであるコルチゾールが分泌されます。このホルモンは放出状態が慢性的に続くと体に悪い影響を及ぼし、赤ちゃんの胎動や心拍も減るというデータがあります。コルチゾールは、本来、胎盤で防御されて、胎児に伝わらないようになっているのですが、妊娠の早い時期で胎盤が未熟だったり、合併症などで胎盤がうまく機能しないと、そのまま胎児に伝わることがあるのです。胎児のコルチゾールが増えると、神経系の発達に影響すると考えられています。

ストレスの敵と戦うために、心臓や脳に血流が集中。欠陥が収縮して、子宮への血流量は低下。ストレスホルモンも胎児に伝わる。

「ストレスの自覚なし」でも、
不規則な生活はストレス状態

一般的に“ストレス”というと、不安や心配、怒り、恐怖……といった精神的なものを思い浮かべることが多いでしょう。けれどもストレスは、激しい騒音、寒い、暑いといった厳しい環境、また体の痛みや疲労、栄養不足なども立派なストレス源です。

「冷えはよくない」「不規則な生活はいけない」「バランスの悪い食生活はだめ」などといわれるのは、これらがストレスの原因だからなのです。自分自身では「ストレスがある」と自覚していなくても、体はストレス状態になっていて、赤ちゃんに影響を与えているのです。

「ストレスを減らしたい!」「ストレスから赤ちゃんを守りたい!」と思うなら、まず真っ先に毎日の生活を見直すことです。早寝早起き、三食バランスよく食べる、など生活習慣、食生活をきちんとすることからはじめてほしいと思います。体がしっかりすれば、肉体的・精神的ストレスに対抗する力もついてきます。

一方、なかなか避けられない精神的なストレスはどうしたらいいのでしょうか。話が矛盾するようですが、そうしたストレスはそんなに悪いことでしょうか。

私は産婦人科医としてたえずストレスを感じていますが、ストレスという刺激があるから、医師として全力を尽くそうという強い気持ちが生まれています。

妊婦のみなさんも、さまざまなストレスを感じていることでしょう。「赤ちゃんはちゃんと育っているだろうか」「元気な子を産めるだろうか」「出産の痛みに耐えられるだろうか」……。でも、これらは妊婦のだれもが感じること。精神的なストレスだから、なくしたいと考えても簡単にはなくせないし、考えることでさらにストレスを重ねてしまう厄介な面もあります。ですから、妊娠中の不安、ストレスは当然あるものだと思って、まず受け入れてみる。「みんなそうなんだ」「不安に思うのは自然なこと」と。そうすることで、ストレスに対処する方法も見えてくると思うのです。

胎児との会話は、手軽にできるストレスケア

朝、起きたら、おなかの赤ちゃんに「よしよし。ママはちゃんと寝たから、赤ちゃんもオッケーよね」「きのうは気分が悪くて、あんまり食べられなくてごめんね」「ママも不安だけど、いっしょに頑張ろうね」と、声をかけてみる。仕事を持っている忙しい人でも、それができていれば、結構いいストレスケアになっていると思います。対話したことを日記に書いてもいいし、胎動の様子を記録して、10年後、20年後の我が子へのプレゼントにするのも素敵なことだと思います。

こんな話は情緒的でメルへンチックに聞こえるかもしれませんが、妊娠中に赤ちゃんと対話ができるのは、お母さんしかいないのです。新しい命が生まれたこと、胎動の様子、赤ちゃんのすべてを知っているのはお母さんだけで、他の人には経験できないことです。その特権をもっと楽しむことが妊娠生活を豊かにし、ストレスを減らすためのコツだと思います。

胎児への語りかけで、ストレス軽減。妊娠というママだけの特権を、もっと楽しもう!

ストレス軽減に、助産婦さんの活躍に期待!

いま、産婦人科医のなかには“ドゥーラ効果”に期待する動きがあります。ドゥーラとは聞き慣れない言葉かもしれませんが、“女性を援助する女性”という意味で、助産師さんのことを指しています。経験豊かで信頼のおける助産師さんに、妊娠初期から出産、育児まで長期的にサポートしてもらうことができたら、妊娠生活はずいぶん安心感のあるものになるのではないでしょうか。

日本には休眠中の助産師さんがたくさんいますので、彼女たちを活用するシステムづくりが必要でしょう。さらに、助産師とドクターが連携して妊婦をバックアックし、ストレスを軽減していくことがこれからの課題だと思っています。

そうしたサポート体制がない、いまの妊婦のみなさんには、できるだけ積極的に社会と関わり、「困ったときには、あの人に相談できる」と思えるような伴走者を自ら求めてほしいと思います。

病院で助産師外来を設けて、助産師さんによる妊婦検診や保健指導を行っているところもあります。病院出産の予定の人でも、近所の助産院をたずねてわからないことを相談することはできるでしょう。地域や病院が行っている母親学級の参加、これはお父さんが一緒に参加できるものも増えています。情報がなければ、役所の福祉課をたずねれば、教えてくれます。さまざまなサポート体制を積極的に利用しましょう。母親、義母、先輩ママの智恵や手もどんどん借りて、孤立しないようにすること。ストレスを軽減させるためには、とても大切なことです。

どうぞ、おなかの赤ちゃんと親子の対話を楽しみながら、そして不安なときには誰かに助けてもらいながら、あなたにしか味わえない、あなたにしか体験できない、貴重な妊娠生活を満喫してほしいと思います。

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