母乳はいつから出るの?飲ませる量や授乳手順を助産師が解説
母乳について妊娠中からある程度情報を集めていても、赤ちゃんが生まれて授乳が始まると、戸惑うことが多いかもしれません。そこで、きめ細かい授乳指導でママたちに人気が高い、とくおか助産院院長の徳岡敏子さんに、母乳についての基礎知識について解説していただきました。授乳の手順や注意点など、ためになるアドバイスが満載です。
監修者プロフィール
徳岡敏子さん
とくおか助産院院長
看護師・助産師。日本マタニティフィットネス協会マタニティヨガ認定インストラクター。AROMA REVOLUTION認定アロマセラピスト・リフレクソロジー。テルミー療術師。26年間、総合病院産科病棟に勤務。2011年に現助産院を開院。
出産を終えてホッとするのもつかの間、直後から授乳が始まります。まずは母乳について、知識を深めておきましょう。
母乳はどうやって作られる?
赤ちゃんが生まれてから10分後くらいで胎盤が排出されると、母乳の分泌を抑えていた「プロゲステロン」といったホルモンの分泌が急激に減ります。同時に、赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激によって「プロラクチン」というホルモンが分泌され、乳腺で母乳が作られます。母乳を乳腺から押し出すホルモン「オキシトシン」も分泌され、母乳が乳頭から出る仕組みです。
母乳が出始める・安定するのはいつ頃?
乳腺の発達は、妊娠初期から始まるといわれています。おっぱいの大きさに関係なく、妊娠期や出産後にかけて乳腺は成熟し、出産後から頻回に赤ちゃんに吸ってもらう刺激により、産後2~3日くらいから母乳の分泌量が増えていきます。安定して出るようになるのは産後1ヶ月くらいが目安です。
当助産院の場合、生まれてすぐに赤ちゃんをママのおなかにのせ、10分くらいして胎盤が出たあと、おっぱいを吸わせます。赤ちゃんには、生きていくうえで必要な原始反射である「吸てつ反射(口に触ったものを強く吸う反射)」が備わっています。生まれて最初に口にするものがママのおっぱいというのが、最も重要です
母乳はなぜいいの?母乳の5つのメリット
メリット1. 赤ちゃんに理想的な栄養源。免疫物質も豊富
母乳は大きく分けて「初乳」「移行乳」「成乳」があります。初乳は、出産後1週間ほどの間に出る、濃くて粘り気のある黄色がかった母乳です。豊富な栄養のほか、細菌やウイルスが赤ちゃんの体内に入って病気になるのを防ぐ「免疫グロブリンA」「ラクトフェリン」といった免疫物質が多く含まれています。
移行乳は、初乳から生乳になる1ヶ月くらいの間に分泌されます。脂質が増えるなど、赤ちゃんの成長に合わせて成分は変化していきます。
成乳は乳糖や脂肪が多く、初乳よりもカロリーが高いのが特徴で、たんぱく質や免疫成分も含まれています。乳糖は体内を巡ってエネルギーとなり、赤ちゃんが健やかに成長するために重要な成分です。たんぱく質は、消化機能が未熟な赤ちゃんの腸に負担をかけず吸収できるように働きかけるため、下痢など調子が悪いときでも母乳を与えることができます。
メリット2. ママと赤ちゃんのコミュニケーションに役立つ
授乳中に触れ合ったり見つめ合ったりすることで、コミュニケーションが生まれ絆を深めます。また、赤ちゃんは安心感に満たされると同時に、ママも幸福ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」が活性化され、充実した気分に包まれるでしょう。
メリット3. 口や舌、アゴの発達を促す
母乳を飲むには、口を大きく開けて乳輪・乳頭をしっかりくわえ、舌で巻きつけるという一連の動作が必要です。くちびる、アゴ、舌を動かすことで口周辺の筋肉や脳への発達刺激に役立ち、生後6ヶ月頃から始まる「離乳食を食べる」ことの土台を作ることができます。
メリット4. ママの体が早く回復する
赤ちゃんにおっぱいを吸われることで分泌されるホルモン「オキシトシン」の作用により、子宮が収縮し、悪露(おろ)の排泄が促され、産後の体が早く回復します。授乳はカロリーを消費するので、産後太りの解消にも役立ちます。
メリット5. ミルクに比べて経済的
ミルクや哺乳瓶、消毒アイテムなどを購入する必要がなく、ミルクに比べてお金がかからず経済的で手軽です。
母乳を飲ませる量はどのくらい?
一般的に、新生児の1回あたりの哺乳量の目安には、次のような計算式があります。
生後日数×10ml+10ml(ミルクの場合)
たとえば、生後1日目なら1回あたり20ml、3日目は40ml。赤ちゃんが泣いて母乳をほしがったら、その度に飲ませてあげてください。新生児の頃は、1日15回くらい飲ませることも珍しくありません。
産後1ヶ月ほどたてば一度にまとまった量を飲めるようになり、授乳リズムが定まってきます。授乳の基本は、おっぱいの片方3~5分を目安にして、左右両方を吸わせます。授乳頻度の目安は、1日10回程度です。
助産院では必要なときしかミルクを足さないので、頻回授乳で乳頭を傷つけないように、赤ちゃんの吸いつき方をよく観察し、赤ちゃんがなめても大丈夫な皮膚の保護剤を使うこともあります
母乳不足のサイン
生後1週間くらいまでは「生理的体重減少」といって、生まれた時の体重よりも150~200gほど減少します。飲む母乳の量よりも、おしっこ・うんちや汗の方が多いからです。母乳の分泌量がまだ不十分なことや赤ちゃんの体力不足も影響しています。生理的体重減少は心配ありません。一方で、母乳不足には、次のようなサインがあります。
生後1週間くらいまで
- おしっこやうんちの回数が少ない
- 赤ちゃんの飲み方が弱く、すぐ寝てしまう
- 体重の増え方が少ない
など
上記の場合、多くのママは入院中なので、助産師や看護師にアドバイスを受け、退院後に向けて対処できるようにしておきましょう。
1ヶ月以上たって
- おしっこやうんちの回数や量が少ない
- おしっこやうんちでもないのに、授乳後30分~1時間で泣き出す
- 体重が増えていない
- 母乳の張りがないように感じる
上記の場合、ママはなるべく睡眠や休息をとったり、ミルクと混合のときはミルクの量を増やしてみたりしてください。そのうえで、早めに病院や産院の母乳相談を受けるとよいでしょう。
母乳の飲み過ぎサイン
母乳の分泌がかなりよい場合や、赤ちゃんが飲む以上に搾乳していた場合に、母乳が「分泌過多」という状態になって、赤ちゃんが飲み過ぎることがあります。
- 授乳直後に水平に寝かせると、すぐに泣き出す
- ゲップとともに、母乳を吐くことが多い
- 授乳後1時間くらいしてから、胃液と消化しきれない母乳を吐くことが多い
- 飲み過ぎで胃やおなか(腸)が苦しくて、ウンウンうなったり、イキんだりすることが多い
上記のような症状があるときは、病院や産院の母乳相談を受けてください。ママの食事指導や母乳マッサージなど適切なアドバイスを受けることで母乳の分泌が安定し、赤ちゃんも楽になります。
初めて母乳をあげるとき
授乳指導をしていると、ほとんどのママの背中や首・肩・腕などはガチガチに硬くなっています。そのうえ、慣れない授乳や育児で疲れ切っています。一日に何回も行う授乳が、つらいものではなく楽にできたらいいですね
授乳スタイルには、横抱き、フットボール抱き、添い寝授乳、たて抱きなどいろいろあります。おっぱいや乳頭の形、赤ちゃんの飲み方により、授乳方法を選んでください。手で支えて低いテーブルやソファなどに赤ちゃんを乗せながら、あるいは添い寝しながらの授乳は、ママと赤ちゃんの体にムダな力が入らず楽な授乳スタイルです。
授乳に慣れないうちは、「交差横抱き」がおすすめです。横抱きの状態で、飲ませるおっぱいと反対側の手で赤ちゃんの後頭部を支えます。もう一方の手で飲ませるおっぱいを根元あたりから持ち上げ、赤ちゃんの口へ持っていき、授乳する方法です。
2~3ヶ月くらいまではおっぱいの張りが強いことが多いので、いろいろな抱き方で多方向から授乳すれば、飲み残しやしこりを防ぐことができます。また、授乳中に気をつけたいのは、お互いの姿勢です。ママは猫背にならず胸を張り、赤ちゃんは体全体をしっかりと横向きにして、おへそがママの体につくようにします。お互いが正しい姿勢をとれば、授乳中に赤ちゃんの鼻をふさぐこともありません。
最初はうまくいかないことが多いので、ママだけでがんばらず、パパや助産師などに助けてもらいながらできるといいですね。産後すぐに授乳が始まるので、本来なら、妊娠中からのおっぱいのお手入れが必要です。乳頭の形(普通、短小、扁平、陥没)や乳輪の広さなどもさまざまなので、それぞれに合ったお手入れ方法を助産師に指導してもらうことが大切です
一般的な授乳の手順
手順1. 赤ちゃんの口元をつつく
赤ちゃんの体全体を横向きにして、赤ちゃんのおへそとママのおっぱいが向き合うような体勢に。赤ちゃんの口をママの指でちょんちょんと軽くつつくと、ママの乳首に吸いつこうとします。
手順2. 乳輪までくわえさせる
乳輪まで、大きく深くくわえさせてください。アヒルのように、唇が外側にめくれていたら、きちんとくわえられている証拠。片方3~5分を目安にして、左右両方を吸わせます。
手順3. 飲み終わったら赤ちゃんの口角を軽く引く
飲み終わったら、ママの指で赤ちゃんの口角をキュッと軽く引くと口腔内に空気が入り、乳頭を傷めずに赤ちゃんの口をはずせます。
手順4. ゲップをさせる
たて抱きにし、赤ちゃんの顔がママの肩に乗るようにします。背中を軽くさすって、ゲップをさせましょう。数分しても出なければ、無理にゲップをさせなくても大丈夫。吐きやすい赤ちゃんは、よく様子を観察してください。
母乳で悩んだら
「母乳について、だれかに相談したい」と思ったら、出産した産院や、母乳外来のある病院、助産院に連絡してみましょう。母乳マッサージやアドバイスが受けられます。
よくあるお悩み1 母乳が足りている?
母乳がどのくらい出ているか分からないので、ママは不安になりますよね。赤ちゃんの機嫌がよく、おしっこが1日5~6回出て、便秘もしていなければ心配ありません。産院の2週間健診や1ヶ月健診をきちんと受けていれば、体重が順調に増加しているか確認してもらえます。不安なら、赤ちゃん用の体重計をレンタルしてもよいでしょう
よくあるお悩み2 赤ちゃんが吸いつきにくい
赤ちゃんがうまく吸いつけず、泣き出してしまうことがあります。乳頭や乳輪を柔らかく、伸びをよくして、赤ちゃんの舌がからんで吸いつきやすくしてあげましょう。乳輪・乳頭部分を上下左右にもんでみてください。さらに、次のマッサージもおすすめです。
●乳輪・乳頭を柔らかく、伸びをよくするマッサージ
1.乳輪全体をつまんで、左右にひねります。
2.乳輪・乳頭を軽く引きのばすようにしてから離します。1→2を5回ほど繰り返します。
●授乳前のマッサージ
授乳前のマッサージも効果的です。両手でわきからおっぱいを4~5回持ち上げるように優しくもんでください。
母乳育児の強い味方! 母乳パッドとは?
母乳パッドは、あふれてくる母乳を吸い取ってくれるアイテムで、ママはとても助かります。胸を覆う形状になっており、ブラジャーに着けて使用します。
母乳パッドの役割
・役割1 母乳のモレを防ぐ
母乳の分泌量が増えていくと、授乳していない時や、授乳している反対側のおっぱいから、母乳がにじみ出てくることがあります。母乳パッドはあふれてきた母乳を吸収し、下着や洋服を汚すのを防ぎます。
・役割2 乳首をやさしく守る
赤ちゃんにおっぱいを頻回に吸われるので、乳首が傷ついてしまい、下着に触れただけで痛くなることがあります。母乳パッドは柔らかな肌触りでクッション性も高いので、敏感な乳首を守ってくれます。
・役割3 乳首を清潔に保つ
栄養が豊富な母乳は雑菌が繁殖しやすいので、赤ちゃんが直接口に入れる乳首は清潔を保ちたいものです。母乳パッドをこまめに替えれば衛生的です。
母乳パッドの種類
次の2種類があるので、自分に合ったものを選んで妊娠中から準備しておくとよいでしょう。
・使い捨ての紙製
使ったら捨てるだけの手軽さがあり、いつも新品を使えて衛生面でも安心です。外出先にも携帯しておけば、すぐに取り替えられます。
・洗って繰り返し使う布製
使い捨てタイプよりも経済的です。綿100%など肌に優しい素材で作られたものが多く、敏感肌の人向き。通気性に優れ、ムレにくいのも○。
分泌がよくなってくる産後1ヶ月頃の、外出しない時や夜間帯などは、ハンドタオルやフェイスタオルで代用してもかまいません。母乳を飲み始めて赤ちゃんがむせて口をはずしてしまうと、赤ちゃんの顔にシャワーのようにかかってしまうことがあり、タオルだとすぐに拭けて便利です。また、授乳し始めると反対側のおっぱいにも母乳が湧いてくるので、タオルで軽く押さえるとモレ防止になります
授乳中におすすめの食べ物・飲み物とは?
ママの食べたものは、母乳の量や栄養に直接影響します。赤ちゃんに良質な母乳を飲ませるには、ママの食事はとても大切です。
授乳中の食事のポイント
・ポイント1 5大栄養素をバランスよく
炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素をバランスよくとりましょう。簡単なのは和食で、魚をメインに、雑穀米、具だくさんのみそ汁、切り干し大根などの小鉢をつければ十分です。料理に使用する油は、オリーブオイルがおすすめ。感染が心配な生卵(加熱したもの少量ならOK)、スパイスや唐辛子、カレーライスといった刺激物、高脂質な揚げ物などはできるだけ控えてください。
・ポイント2 不足しがちな栄養素を意識して
授乳中は、鉄分とカルシウムが母乳に移行して不足しがちです。鉄分は、ひじき、切り干し大根、納豆、きなこ、アサリ、カキ、赤身の魚などに豊富に含まれます。カルシウムは、豆乳、オクラ、小松菜、小魚などに多いです。カルシウムは牛乳やチーズなどにも含まれますが脂肪分が多く、母乳トラブルの原因になるので控えましょう。
・ポイント3 水分補給を忘れずに
母乳の約90%は水分です。母乳を出すごとに、ママはたくさんの水分を失っています。スープやみそ汁を食事に加えるほか、常温や温かい飲み物をこまめに摂取しましょう。
注意したい食品
・カフェインの入った食べ物・飲み物
コーヒー、チョコレート、お茶、紅茶などに含まれるカフェインには、覚醒作用があります。多くとり過ぎると、赤ちゃんの寝つきが悪くなることがあるので気をつけて。コーヒーなら、1日1~2杯を目安にしましょう。カフェインレス飲料でおすすめは、ルイボスティー、よもぎ茶、たんぽぽ茶などです。
・アルコール
ママがお酒を飲むと、アルコールが母乳へ移行します。臓器が未熟な赤ちゃんはアルコールをうまく代謝できず、成長に悪影響を及ぼす可能性があるので、授乳中は控えることをおすすめします。
母乳の保存方法について
母乳の保存期間の目安は以下の通りです。
- 室温……4時間以内(室温や季節による)
- 冷蔵……24時間以内(煮沸・加熱・消毒剤のいずれかで哺乳瓶を必ず消毒する)
- 冷凍……1ヶ月以内(滅菌母乳パックを使用する)
母乳には搾乳した日時を記入し、保存期間を守るようにしてください。
搾乳した母乳は、直接哺乳瓶に入れるか、市販の保存専用容器に入れます。雑菌が入らないように速やかに密閉して保存しましょう。冷凍した母乳を解凍する場合、自然解凍か流水で解凍後、40℃くらいのお湯で湯煎します。電子レンジや熱湯などで急速に解凍すると、母乳の成分が壊れるので避けましょう。
『産後に母乳がスムーズに出ない……』という場合は、母乳をあげながら授乳用ミルクも利用しましょう。授乳用ミルクも、赤ちゃんの成長を考えた栄養バランスが十分に整っています。哺乳びんを使った授乳でも、赤ちゃんをしっかり抱っこして見つめてあげればスキンシップがとれ、愛情が伝わります。
また、授乳だけでなく育児に疲れたら、『つらい』『手伝ってほしい』と周囲に伝えましょう。パパはできることを手伝い、授乳がスムーズに進むようにサポートしてあげてください。授乳がうまくいけばママは楽になり、赤ちゃんもご機嫌になってハッピーな育児につながりますよ
監修/とくおか助産院院長 徳岡敏子さん
update : 2021.08.06
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