名前が性格をつくる!“語感”名づけのススメ。
「タケシ~」「シュ~ン」「アヤ~」「ミ~ド~」…毎日毎日、人から呼ばれ、言葉として発せられる、「名前」。その音は、脳に響き、潜在意識にまで作用して、性格や人格、人生観にまで影響する――。人工知能(AI)研究から発見された、語感が持っている力。このパワーを最大限活かした名づけをご紹介。語感研究の第一人者、黒川伊保子さんによる、新命名法です。
監修者プロフィール
黒川 伊保子(クロカワ イホコ)先生
人工知能研究者、脳科学コメンテーター。1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて人工知能(AI)の研究開発に従事した後、2003年株式会社感性リサーチ設立。脳機能論を用いた語感研究の第一人者。『名前力~名前の語感を科学する~』(イーステージ新書)、『しあわせ脳に育てよう!』(講談社)、『女の機嫌の直し方』(インターナショナル新書)など著作多数。近著に「母脳~母と子の脳科学」(ポプラ社)
名前の発音は、潜在意識に作用する!
ことばには、意味を超えた不思議な力があります。それは、名前にも言えること。
たとえば、「スズキ シュンスケ」という名前を聞くと、いかにも機敏で颯爽とトラックを駆け抜けるアスリートのような感じがします。
「ゴウトクジ マナブ」と聞くと、なんだかいつも難しい本を読んでいる研究者のイメージ。
そして、「ゴジラ」「ガメラ」「キングギドラ」…という怪獣の名前からは、なぜかとても強そうな印象を受けます。
「これらは偶然ではありません。語感が脳に与えるイメージによるものなのです」というのは、語感研究のパイオニアである黒川伊保子さん。
それは、いったいどういうことなのでしょうか?
「“シュンスケ”と発音すると、“シュ”や“ス”で口の中を息が素早く吹き抜けるのがわかりますよね。サ行の名前は、発音すると口の中の温度が下がるため、風が吹き抜けるさわやかなイメージが残るのです」
シュン、スケ。シュー、スー…。確かに! 実際に口に出して言ってみると、息が舌の上を通り抜けて、口の中が冷えていきます。
では、怪獣の名前は? なぜか「ガギグゲゴ」とガ行が多い気がしますが……。
「まさに、そうなんです。ガ行の音は、喉をギュッと締めながら発音します。そのため、ガ行を口にしたり耳にしたりすると、襟首をつかまれるような威圧感、カリスマ性を感じます。強そうな怪獣や戦隊の必殺技、武器などの名前に多く使われるのも納得でしょう?」
ガチャーン! ギクッ! ギャオーッ! ゴゴゴーッ! 確かに。ガ行の音には勢いがあり、強そうな感じがします。
音は文字よりも深く、潜在意識に働きかける
画数のいい名前をつける、使いたい漢字を使ってつける、ことばの意味からつける……。さまざまな命名法がありますが、いったいどういう方法がいいのか、迷います。
「画数など昔ながらの命名法ももちろん、あり。ほかの方法を否定しているわけではないんですよ。名付けのもうひとつ別のアプローチの方法として、音の響き、つまり語感を大切にした命名法もありますよ、ということなのです」
黒川さんは、語感がその子に与える影響はとても大きい、といいます。その子の性格や生き方にまで影響を与える、と――。
「音を口にするたびに、また聞くたびに、私たちは身体感覚としてイメージを感じ取ります。先ほどのシュンスケくんのように、サ行は口の中を息が吹き抜けるので、“さわやかそう”と感じるし、ガ行は喉を締め付けられる感じで、“強そう”となる。そのイメージは、自覚しているよりも深く、潜在意識に働きかけるのです」
漢字など文字面から受け取る情報は、主に思考をつかさどる大脳が処理をします。しかし、名前を呼ぶときに生じる身体感覚、口や唇を動かして音を出す感覚は、バランス感覚や運動機能をつかさどる小脳を経由して、脳の潜在領域に直結して作用する――。
人間は、ことばの意味もわからない赤ちゃんのころから、唇の周辺で起こっている“息や筋肉の動き”を、鋭く感じ取っている、という黒川さん。
「たとえば、“マ”と言ってみてください。【マ】は、赤ちゃんがおっぱいをくわえたときの口の形なんです。舌の上に、柔らかな空洞を作り、そこに息をためていく。まろやかに満ちていく感じが、口腔いっぱいに広がります。舌は、甘くまったりしたものを載せたかのようにも感じています。まろやか、まったり、満足感……といった言葉がマから始まるのは、その発音体感と意味が一致するから」
こうした、ことばを発したときに体が感じる印象が、「発音体感」と呼ばれるもの。「タチツテト」と口にすると、どこか地に足がついたイメージを感じたり、「ハヒフヘホ」という言葉を口にすると、なんだかホンワカした気持ちになったり……。
「それらは気のせいではなく、すべてこの“発音体感”に基づいている。そのことが人工知能を研究し、ヒトとロボットとの会話を研究をしているときに、わかったんです」
ロボットの対話に欠けていた「語感」
発音体感の存在に黒川さんが注目したのは、1990年代初頭。
人工知能のエンジニアだった黒川さんは、ヒトとロボットの対話を研究していました。その中で黒川さんは、「語感」を無視すると会話がギクシャクして不自然になることをつきとめ、語感を科学的に分析する手法を確立していきました。
「たとえば、“はい”と“ええ”。同じように肯定する意味を持っていますが、印象が違うでしょう? “申し訳ありません”と“すみません”という同じような謝罪のことばにも、ニュアンスの違いがあります」
たとえば、会議の直前に資料が足りない、即対応!となったときには、スピード感のある“すみません”で謝ってもらったほうが気持ちいい。“申し訳ありません”なんて言われたら、もたついた感じがして、ちょっとイラっとしてしまう――。
「このようなことばの使い分けを、私たちは自然にやってのけているのですが、ロボットに再現させるためには、語感の印象を分析して数値化する必要があったんです」
その研究のさなかに、出産。ある日、おっぱいをくわえ損ねた赤ちゃんが、「hMM」と美しいM音を発音したことから、「M音はおっぱいをくわえた口腔形。舌の上にまったりと満ちていく息の空洞がある。だから、まったり、満ち足りた、なんていうことばはM音なんだ」と気づき、ことばのイメージ=語感は、身体の感覚と直結しているという事実に思い至ったのだそうです。
「赤ちゃんは大きなものを見たときに“おー!”といいますよね。“お”は、口腔を大きな空間にする母音。長音(のばす音)にすることで、身体全体に響く感じが伴うので、“大きいぞ~!”という意識と合うんです。こうして、私たちは、意味とは別に、発音体感で情感を表現したり、伝えることができる。発音体感と意味が一致した時には、格別の正しさを覚えます」
繰り返し呼ばれることで、イメージが刷り込まれていく
語感は、身体感覚によって想起されるイメージである、ということがだんだんわかってきました。
「ひなちゃん、こっち向いて~」
「れんくん、いい笑顔だね~」
赤ちゃんが繰り返し耳にする単語といえば「自分の名前」です。
自分に向けて発せられる音が、やわらかい印象のものなのか、凛としたクールな印象のものなのか。まだことばも話せない赤ちゃんのうちから、私たちは、自分の名前を呼ばれるたびにそのイメージを無意識のうちに再確認して脳にインプットしていきます。
やがて人は、その語感からイメージされる「周囲の期待」に応えようと、そのように振るまったり、育っていくようになる――。
破裂音が続く名前のタケシくんが、元気いっぱいのガキ大将からリーダーに育っていくように――。
母性を感じさせる鼻濁音並びの名前のマナミちゃんが、お母さんのようなやさしさで周囲の人を包み込んでいくように――。
語感によって生じる期待感に導かれながら、幼子は性格を形成して、人生を開花させていく……。
赤ちゃんの名づけとは、その子の人生に方向性を授ける魔法なのかもしれません。
いかがですか? 語感のパワー、感じていただけましたか? では実際にどんな名前の「音」にどんなイメージがあるのか、具体的な語感名づけの方法をご紹介しましょう。
語感名づけのポイントは、先頭の文字
「語感を手がかりに名前を考える場合、最も大切なのは先頭の字」という黒川さん。
たとえば、タケシの「タ」、マナミの「マ」。先頭の字は音が現れるまでの時間がいちばん長いため、最も強く脳に作用するのだそうです。
「筋肉が強く緊張すれば、発せられたことばからは硬さを感じます。逆に、筋肉がゆるめば、ことばもやわらかくゆるやかな印象を残します。名前の語感をつくりだすのは、もちろん先頭音だけではありませんが、先頭音だけでも、充分に名前の魔法を味わっていただけます」
さあ、これから生まれてくる赤ちゃんには、どんな祝福の魔法を贈ってあげましょう?
一生付き合うことになる名前の音、以下を参考に、研究してみてください。
名づけ実践編 それぞれの音が持つイメージとは
ことばによって、まったく違う印象や特徴を持っている「語感」。黒川さんはこれを18の項目に単純化して以下のように大別しました。
1.【あ】から始まる名前:オープンで明るく自然体
息を止めたりこすったりせず、声帯の響きだけで出す自然音。「あ」は口を開ける心地よい開放感があり、のびのびとこだわりがなく、あっけらかんとした性格に育ちます。
男の子:アキラ、アツム、アサヒ、アキヒロ
女の子:アヤカ、アイ、アミ、アオイ
2.【い】から始まる名前:一途ながんばりやさん
舌の根元から中央に向かって、強い緊張感をつくりながら出す「い」の音。口の奥から前に向かって強く押し出すように発音するため、ひたむきで前のめりな性格に育ちます。
男の子:イツキ、イタル、イッセイ、イブキ
女の子:イズミ、イオリ、イクミ、イトセ
3.【う】から始まる名前:内なる力を秘めたクリエイター
舌をくぼませ、力を集中して発音する「う」。強い力が内向きに働くため、独自の世界観を自分の中で熟成させていくクリエイティブな性格に育ちます。
男の子:ウキョウ、ウイチロウ、ウシオ
女の子:ウミ、ウララ、ウタ、ウノ
4.【え】から始まる名前:知的でエレガント
舌を平たくして、口の奥に引き下げるように発音する「え」。一歩下がって周囲を眺め、物事の本質を見抜いたり、物事を客観的にとらえる分析的な性格に育ちます。
男の子:エイタ、エイスケ、エイシン、エイト
女の子:エマ、エリカ、エミ、エリナ
5.【お】から始まる名前:おおらかで寛大な大物
唇をすぼませながら、口の中に大きな空間を作って音をひびかせる「お」。包み込むような優しさ、安定感を感じる音です。包容力や存在感のあるリーダータイプに育ちます。
男の子:オウスケ、オウガ、オサム、オウタロウ
女の子:オトハ、オリエ、オウカ、オトミ
6.【か行】から始まる名前:クールでドライでカッコいい
のどをキュッと絞って発する「か行」の音。息が口の中に強くぶつけられ、素早く駆け抜けるため強さやスピード感抜群。目標に向かってジャンプする瞬発力のある子に育ちます。
男の子:カイト、ケンタ、ケイスケ、コウセイ
女の子:カノン、カホ、ケイコ、ココロ
7.【さ行】から始まる名前:爽やかで清潔感いっぱい
息を舌の上にすべらせて出す「さ行」の音。息をシャワーのように噴出させるので、光が拡散するようなイメージもあります。爽やかでスマートにふるまえる子に育ちます。
男の子:サトシ、ショウ、スバル、ソウタ
女の子:サアヤ、シホ、スズネ、セリナ
8.【た行】から始まる名前:パワフルで粘り強いリーダー
舌に息をため、上あごにぶつけて叩き出すように発音する「た行」の音。強いパワーだけでなく、舌の唾液をはがすようなしっとりした粘性も備え、一歩一歩積み重ねるしっかり者に育ちます。
男の子:タケル、ツヨシ、テッペイ、トウマ
女の子:タマキ、チアキ、ツムギ、トモカ
9.【な行】から始まる名前:親しみやすい愛されキャラ
上あごを舌でやさしくなでるようにして出す「な行」の音。N音から始まる名前を口にすると、やさしくなでられるような親密な感情が生まれ、誰からもかわいがられる子に育ちます。
男の子:ナオキ、ナツキ、ノゾム、ノリユキ
女の子:ナナミ、ニナ、ネネ、ノゾミ
10.【は行】から始まる名前:ほんわかふわふわの癒し系
喉をこすりながら、温かい息をゆっくりと口もとへと運ぶ「は行」の音。「ハ~」とかじかんだ手を温めたり、「フ~」とスープを冷ましたり、ほんわかとほどよい距離感で人に寄り添う癒し系の子に育ちます。
男の子:ハルト、ヒロト、フミヤ、ホクト
女の子:ハオト、ヒナタ、フウカ、ホノカ
11.【ま行】から始まる名前:お母さんのような頼られキャラ
口の中にやわらかく満たした息を、鼻腔に響かせて出す「ま行」の音。ハミングのようにふっくらとした幸福感と安心感を与えてくれます。信頼され、面倒見のいい子に育ちます。
男の子:マサヨシ、ミキト、ミナト、モトキ
女の子:マナミ、マユ、ミサキ、メイ
12.【や行】から始まる名前:やわらかくやさしくゆったり
「ィヤ」「ィユ」「ィヨ」と、母音「イ」を変化させながら出す「や行」の音。曖昧でゆらぎのある弛緩した音は、やさしい開放感に満ちあふれています。人当りがやわらかく懐の深い子に育ちます。
男の子:ヤマト、ユウマ、ユウキ、ヨウヘイ
女の子:ヤヨイ、ユリナ、ユカリ、ヨシノ
13.【ら行】から始まる名前:知的でスタイリッシュ
舌を花びらのような形にして、ひらりとひるがえしながら発音する「ら行」の音。華やかさの一方で、口を技巧的に動かして発音するため、知的でスタイリッシュな子に育ちます。
男の子:ライト、リク、リョウタ、レン
女の子:リコ、リナ、ルカ、レイナ
14.【わ】から始まる名前:サービス精神旺盛な個性派
「ゥア」と母音を変化させながら発音する「わ」の音。「ウ」の緊張感を、一気に「ア」へ押し広げて発音するため、ふわっと膨らむイメージの音です。わっ!とダイナミックに人を楽しませる子に育ちます。
男の子:ワタル、ワク、ワカアキ、ワヘイ
女の子:ワカ、ワカバ、ワカナ、ワコ
15.【が行】から始まる名前:凄みのあるカリスマ
喉をギュッと絞るようにして出す「が行」の音。喉元を締め上げられるような感覚がするので、無意識に脳に偉大さや凄みを感じさせます。周囲がひれ伏すような迫力のあるカリスマ性のある子に育ちます。
男の子:ガクト、ゲンキ、ゲンイチロウ、ゴウタ
女の子:グミ、グリコ、グエン
16.【ざ行】から始まる名前:お茶目でモテる人気者
口の中で舌がふっくらと膨らむ「ざ行」の音。豊かで高級感のあるイメージ、育ちの良さを感じさせます。発音したときに口の中に風が起きるため、にぎやかさのあるお茶目な子に育ちます。
男の子:ジュン、ジュンイチ、ジュンペイ、ジョウタロウ
女の子:ジュリ、ジュリア、ジュンコ、ジュンナ
17.【だ行】から始まる名前:どっしりと風格のある大物
上あごに舌をやわらかくぶつけて出す「だ行」の音。振動音が口の中にとどまるので、重く動かないどっしりとしたイメージがあります。大樹のような安心感のある子に育ちます。
男の子:ダイキ、ダイスケ、ダイゴ、ダイチ
女の子:ドナなど
18.【ば・ぱ行】から始まる名前:元気はつらつパワフル
くっつけた唇を息で破裂させて出す「ば行」「ぱ行」の音。唇を刺激するので食や成長、繁栄や繁殖のイメージです。イキイキとした生命力を周囲にふりまく、元気はつらつな子に育ちます。
男の子:ビン、ブンタ
女の子:ベニ、ベニオ
update : 2017.12.18
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