体外受精のステップ、薬や注射にまつわる費用
「体外受精」は、文字通り体の外で卵子と精子を受精させる不妊治療。その受精卵を体内に戻すことで、妊娠を促します。高度医療ではあるものの、いまや年間1万5000人以上の赤ちゃんがこの方法で生まれていて、不妊の一般的な治療になりつつあるのです。
とはいえ、「体外受精って、どんな方法?」「いつ、始めたらいいの?」など、体験した人でなければ疑問はつきないでしょう。ここでは、ドクターに聞いた体外受精の方法やタイミング、そして、気になる妊娠率やお金のことについてご紹介します!
この記事の監修
中村はるね先生
「今や体外受精は一般的な治療になりつつあります」と『はるねクリニック銀座』の中村はるね先生。
体外受精ってどんな治療?
これまでは一般的な不妊治療を見てきましたが、いよいよ今回は体外受精のお話。体外受精は高度医療といって、以前は行っている病院も限られていましたが、今では日本全国600ヵ所以上の医療機関で受けることができます。体外受精で生まれる赤ちゃんも、年間15,000人以上!
「体外受精の平均年齢は37~39歳ですが、20代の人でも、早く結婚して妊娠できなければ、体外受精をする人もいます。早く結果を出したい人や2年以上一般不妊治療をして妊娠しない人は、体外受精をするんですね。今や体外受精は一般的な治療になりつつあるんです」(中村はるね先生)。
体外受精とは、体の外に卵子を取り出して精子と受精させ、その受精卵を女性の体に戻す方法。人工授精と同じように、できるだけ卵子を多くつくり(自然周期で採卵する方法もある)、体外で受精させますが、人工授精と大きく違うのは、自力で排卵させないこと。これまで見てきた治療では、卵胞の成長を見ながら、排卵日に精子とうまく出会わせていましたが、体外受精では、排卵を薬でコントロールして自然に排卵させないようにし、卵子を取り出していくのです。
体外受精のステップ1-採卵まで
体外受精の進め方を順番に見ていきましょう。
まずは、生理が終わって高温期になったら、排卵を促す働きのあるホルモンを抑える薬を使います。これは、鼻にシュッと噴霧するタイプの点鼻薬が一般的ですが、注射で行うこともあります。卵を採る日の前々日まで、こうしてホルモンの状態を抑える薬を使い続けます。
薬を使っていても、生理はふつうに起こります。次の生理が来て3~5日目から、排卵誘発を行っていきます。排卵誘発の薬は、飲み薬と注射がありますが、体外受精の場合は、できるだけ多くの卵子をつくりたいので、注射で行うのが一般的。卵胞が約18~23mmの大きさになるまで毎日注射を打っていきます。この注射のための通院が大変なところですが、通えない場合は、自己注射することもできます。
「注射で排卵誘発をすると、だいたい5~10個の卵子が取れます。30代前半だったら、卵子は7~10個ぐらいできますね」(はるね先生)
卵子が大きくなったら、排卵を促すhCGという薬を注射します。この注射をするのは採卵の前々日。病院によっては、注射をする時間も決められています。これで、体外受精の準備段階は終了。いよいよ採卵日を迎えることになります。
体外受精のステップ2-採卵
卵巣から卵子を取る「採卵」は、超音波の先に針がついているものを膣から挿入して卵巣に刺し、卵胞の中にある白身のような卵胞液を採ります。
卵子は、この卵胞液の中に含まれていて、まわりの液ごと採られるので、卵子が傷つくことはありません。採卵は、個人差もありますし、施設によっても違いますが、痛みに弱い人は、静脈麻酔をかけて行うので、眠っている間に採卵が終了します。時間にして10分程度。
「採卵は、2~3個の卵なら麻酔なしでできます。卵胞の中の液を抜いて、中に0.1mmの卵子があるかどうかを、胚培養士(エンブリオロジスト)が顕微鏡で確認します」(はるね先生)。
採卵したあとは、しばらく病院で休みます。また、採卵している間に、夫は別室でマスターベーションをして精子を採ります。こうして取り出した精子を、培養液の中に置いた卵子の上に振りかけて受精させます。「ふつうは、卵のまわりの細胞をはがして精子を置いてあげます。こうして1日経つと受精しているかが分かります」(はるね先生)
もし、受精しなかったり、精子の数が少ない、精子の運動率が悪いなどの場合には、顕微鏡を見ながら、人の手で1つの卵子に1つの精子を入れていきます。これを「顕微授精」といいます。顕微授精をした場合の受精率は95%以上。
受精させた卵は、培養器に入れて培養します。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、2分割、4分割、8分割となっていきます。通常、子宮に戻すのは4分割か8分割した状態。採卵してから、2~3日後になります。
体外受精のステップ3-胚移植
培養した受精卵を子宮の中に戻すことを胚移植といいます。ふつうは採卵してから2日後に行います。受精卵をカテーテルという細い管で吸引し、膣から挿入して子宮内膜の上に受精卵を置いてあげます。胚移植は、無麻酔でできて、痛みや不快感はありません。時間は5分程度で終了します。
子宮に戻す状態は、4分割か8分割した受精卵で、卵の状態のいいものを選んで移植します。双子や3つ子の可能性があるので、1回に子宮に戻す数は1~3個まで。これ以上の受精卵は、冷凍保存して、再度移植をする時に使います。
「受精卵の分割状態を見て、状態のいいものは2~3日で子宮に戻します」(はるね先生)。
さらに、卵がたくさん採れた場合などは5~6日まで培養します。受精卵が卵管を通って子宮にたどり着くのが約1週間なので、おなかの中で受精した経過とほぼ同じ状態になるので、これを再び子宮に戻します。これを2ステップといいます。このステップを踏まずに、5~6日目に一度に戻す方法もあります(胚盤法移植)。
「過去に体外受精を何回かしてダメだった人は、この2ステップを踏むことで妊娠率はさらにアップして、40~50%までになってきました。技術はここまで進歩しているんです」(はるね先生)
いよいよ妊娠判定
受精卵を子宮内に戻したら、着床率を高めるために、黄体ホルモン(プロゲステロン)の薬を使っていきます。黄体ホルモンは、妊娠を維持するために必要なホルモン。飲み薬や注射、膣内に挿入する膣坐薬など、いろんなタイプがありますが、妊娠判定の結果が出るまでは最短でも使っていきます。
妊娠判定は、胚移植してから2週間後に行います。血液検査や尿検査で妊娠が確定されますが、妊娠反応が出ても、流産の危険性もあるので、黄体ホルモンの薬はしばらく使い続けます。そして、内診で赤ちゃんの心拍が確認できたら、めでたく産科へ移ることになります。
「体外受精の技術は進歩していて、妊娠率は40%。一般治療とあわせると、80%の人は妊娠できるようになりました。けれども、あとの20%は年齢の壁があって、卵の老化は今の医学でもどうにもできないことなんですね。34~37歳ぐらいで卵の老化が始まって、38歳で妊娠率がガクッと減ってきます。40歳を過ぎると、卵の質も悪くなって妊娠率は下がり、流産率も高くなるので、治療をするなら、できるだけ早い段階で決断するといいですね」(はるね先生)
気になるお値段は?
体外受精は不妊治療の最後の切り札。赤ちゃんが欲しい人にとっては、受けてみたい治療ですが、気になるのはお値段です。保険がきかない自由診療なので、値段は医療機関によってさまざま。1回30万円というのが平均的な金額です。
「顕微授精は約40万円、着床率を高めるために培養した受精卵のまわりに傷をつける“ハッチング法”という方法を加えると1回40~50万円かかります。機材や技術料などでどうしても高額になってしまうんですね。日本でも少しずつ、不妊治療で保険が適用されるようになってきていますが、輸入薬は保険外なので、やはり高額になってしまいます。日本でも体外受精で10万円(自治体で金額や制度が異なる)助成されるようになりましたが、ドイツやフランスに比べると少ないですね。この治療は経済的な負担もあるし、結果が見えない治療でもあり、心身への影響も考えていかなくてはいけません。でも、限られた時期にしかできない治療だということも事実。夫婦でよく話し合って、よい選択をしていってほしいですね」(はるね先生)
- ※施行されている制度は、変更されることがあります。現行の不妊治療の金額、助成などの制度については、各医療機関、国や自治体にお確かめください。
監修/中村はるね先生(はるねクリニック銀座院長) 取材協力/はるねクリニック銀座(東京都中央区)
update : 2016.01.04
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