母子手帳「胎児発育曲線(新生児の成長曲線)」の見方と活用法
「赤ちゃん小さめだね」「ちょっと大きめだね」なんて、妊婦健診で言われて、ちょっとドキリ。おなかの赤ちゃん順調なのかな…? なにか問題あるのかな…? そんな不安を払拭するため、胎児ちゃんの発育曲線をお勉強! さあ、手もとに母子手帳を用意して! 「胎児発育曲線」を開発したドクターに聞きました!
監修者プロフィール
篠塚憲男(しのづかのりお)先生
胎児医学研究所代表
医学博士.超音波専門医. 超音波指導医 臨床遺伝専門医 産婦人科専門医。
浜松医科大学卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室 、コーネル大学留学、帝京大学産婦人科学教室講師などを経て、現職。胎児の体重を推定する計算式を開発した、超音波診断の第一人者。現在、瀬戸病院で、週2回「出生前診断/遺伝外来/超音波外来」を担当。
母子手帳の「胎児発育曲線」、知ってますか?
突然ですが、このグラフ、見たことはありますか?
これは「胎児発育曲線」という、おなかの赤ちゃんの発育を見るもの。週数ごとに、何グラムくらいに育っていれば「順調」なのかを、このグラフで見ていきます。
そして実はこれ、母子手帳に載っているんです。
え!? どこに!? そんなのあったっけ…!? という方のために、このグラフを開発した産婦人科医、篠塚憲男先生とともに、グラフの見方や使い方を学びましょう。
胎児とママのトラブル発見につながる!
「胎児発育曲線」が母子手帳に掲載されるようになったのは、平成24年の改訂から。といっても、自分で書き込みをしたりする前半の“省令様式”部分ではなく、“任意様式”と呼ばれる後半の部分に掲載されています。
このグラフのポイントは、健康な状態で生まれた日本国内の赤ちゃんのデータだけで作られていること。また、早産の赤ちゃんなども含まれていません。発育が順調であることの指標とするために、38~41週の正期産で経腟分娩、2500g~3,999gの正常体重で生まれた赤ちゃん3,761人の、超音波での体重計測データをもとに作られています。
「でも、健康な胎児が100人いれば、もっとも大きい子2~3人、もっとも小さい子2~3人は、この線から外に出ます。ですから、この線から出たからといって必ずしも問題があるわけではありません。ただ、この曲線からはみ出した場合に、何か胎児の正常な発育を妨げている要因がないかを探る目安にしようというものなのです」と、篠塚憲男先生。
このグラフは“健康な状態で生まれた赤ちゃんの95.4%が、胎児時代にこの曲線の間に入っていたんだよ”という風に解釈すればいい、と、篠塚先生。胎児の推定体重がこの線の間に入っていれば、おおむね健康な正常体重で生まれることが期待できる…と判断するわけです。
実際に胎児成長曲線を使ってみよう!
推定体重は、もらった超音波写真に「EFW」という記号で書かれています。(Estimated fetal weight)。
超音波写真をもらったら、妊娠週数(GAもしくはAGE)と推定体重(EFW)をチェックしてみてください。横軸で妊娠週数、縦軸で胎児の推定体重を取り、曲線の中につけていきます。
記者の子の超音波写真では、26週6日で1237g、32週3日で2063g(その間のエコー写真は無くしてしまいました 汗)。実際に曲線に記入してみるとこんな感じに!
で、でかい!! かなり曲線の上スレスレを推移しています!!!
妊娠中は気づかなかった――っ!!!
こんな「でかめ安定」だった下の子、産まれたときの体重もやはり「でかめ」の3,684g。40週0日の予定日ぴったりで出てきました。
「でかめ」だったせいか、分娩時にちょっとひっかかってはいましたが、所要時間2時間50分のスピード安産でした。3歳になったいまも保育園の同級生の中では大きめ。身長も体重もしっかりあります。
曲線からはみ出した場合、どんな心配があるの?
推定体重は、妊娠週数に見合って順調に発育しているかどうかを判断する重要な手がかり。でも、曲線からはみ出してしまった場合、どんなことが考えられるのでしょう?
「もし上の線から出てしまった場合、ママが妊娠糖尿病を発症していると、胎児が大きく育ちすぎる場合があります。ですから、尿糖や血糖値の検査をします。妊娠糖尿病でなければ、胎児が大きいのは、おおむね個人差と考えていいでしょう。ただし、出産時に赤ちゃんがスムーズに産道を通れなくて難産になる確率が上がることがあります」
逆に、下の線から出てしまった場合はどう考えればいいのでしょう?
「発育を妨げる主な原因としては、胎児の染色体異常や心臓などの形態異常、母体側では妊娠高血圧症候群、風疹やサイトメガロウィルスなどの感染症、喫煙、アルコール、薬剤、低酸素状態、栄養不足などが考えられます。また、胎盤や臍帯の異常も、胎児の発育を妨げる要因になります」
い、異常!? 具体的に病名が並ぶとなんだか怖いです。
「そんなに怖がらないでください。産科医は非常に慎重です。胎児の発育を妨げる要因があるなら、早くそれを見つけて、良いコンディションで産んであげるための対策を考えたいからです」
無事出産のために、下の線に近い場合は胎児発育不全と考えて、念のために詳しく状態を診ていくこともある、と篠塚先生。実際には、ぎりぎりのラインにいても、線に沿ってコンスタントに大きくなっているのであれば、心配ないことが多いといいます。
「気がかりなのは、それまで真ん中あたりにいたのに、だんだん発育がにぶってきて、線の外に出てしまうとき。これは慎重に調べてあげたほうがいいですね」
あくまでも重要なのは、発育の「経過」。また、計測による誤差などもありますから、小さいと思われた場合は1週間くらいの間をおいて再検査することがよくあります。
実はめちゃくちゃ広い「誤差の範囲」と「個体差」
推定体重は、超音波で頭や腹部の大きさ、大腿骨の長さをはかり、それを計算式に当てはめて算出しています。ところが、胎児は小さいので、1mm、2mmのわずかな測定差が大きく影響してきます。また、超音波検査をする人によっても計測の誤差が生じる可能性があるので、実際の発育の経過をみて総合的に判断する必要があります。
母子手帳に発育曲線を掲載するに際して、この様な理由から、細かいことを気にしないように一般向けに平均値の曲線をなくして上下の範囲だけの曲線としています。
その結果、胎児推定体重は、実際の体重と±10%もの誤差が生じることもあるとか…。もし超音波の推定体重が2,000gだった場合、実際には1,800gから2,200gの間と考えられる…という…。わりにザックリした数字なのです。
ゆえに、たとえば4000gと推定されていても、実際は3600gで、経腟分娩でラクラク出産というケースもあるのです。記者も最後の超音波検査で4000g超えといわれていましたが、実際に産んだら3684gだったのでした。
このように、推定体重にそもそもの誤差があるうえ、赤ちゃんそれぞれの個体差もかなり大きいのです。
「胎児成長曲線を見てみてください。個人差がいかに大きいかわかりますよ。たとえば、20週の場合、小さい子は210g、大きい子は416gと、実に2倍もの差があるんです。2倍ですよ!? 胎児ひとり分もの違いがあるって、かなりの違いですよね。
これが30週になると、1098g~1842gと、約750gもの開きがでてきます。ひとりひとり違うのですから、胎児成長曲線の範囲内におさまっていれば、小さめでも大きめでも、そう心配することはありませんよ」
妊婦健診のとき、お医者さんから「大きい子だね」とか「ちょっと小さいね」といわれることがあります。こう言われると、赤ちゃんは大丈夫なの…!?と不安になってしまいますが、多くの場合、この「大きい」「小さい」は平均値と比べた場合の“個人差”の範囲内なのです。
胎児発育不全といわれても、7割は問題ない!
「胎児発育不全と指摘されて検査を受けた人のうち、疾患や感染症など原因が見つかるのは3割ほど。7割は特に原因が見つかりません」
「胎児発育不全です」といわれたら、それだけで怖くなってしまいそうですが、そのうち7割は問題ないと知って少し安心しました。でも、もし何か原因が見つかったとしても、「良い状態で産んであげるための対策を考えることができた」「妊娠や出産のトラブルを事前に回避することができた」と、ポジティブに受け止めたいですね!
胎児の発育=子宮の環境=母体の健康
「胎児の発育は、とにかく上向きに伸びていることが重要で、発育の速度が低下したり、止まったりすることが問題なのです。発育=子宮の環境=母体の健康。つまり母体の健康が保てないと、子宮環境が悪化して、胎児の発育が遅れる、止まる。すると羊水も少なくなる……悪化すれば胎児機能不全となり、赤ちゃんが危ない!
ですから、まず、お母さんが健康でなくてはいけない。赤ちゃんのために、健康的な生活を送ることが大事です。基本、ちゃんと発育していて、ちゃんと動いていれば、赤ちゃんは元気です。あまり細かいことに気を遣い過ぎないでください」
篠塚先生のこのメッセージをしっかと受け止めて、おなかの赤ちゃんのため、自分の体と心を大切に、妊婦生活を送りましょう!
篠塚先生が疑問に答えるQ&Aはこちら
update : 2018.01.15
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