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妊娠9ヶ月(妊娠32週、33週、34週、35週)の胎児と母体の状態

妊娠32週から始まる妊娠9ヶ月。この月、赤ちゃんの肺機能はほぼ完成! 母体の外でも自力で呼吸できる能力を獲得します。でも、出産予定日まで、もう少しの間、ノンストレステスト(NST)や胎動チェックで胎児の元気さを確認します。ママは、「動悸・息切れ」「腰痛」「尿もれ」「破水」「おりもの」「産休」「里帰り」「GBS検査」などが、キーワード。この時期の胎児のこと、母体のこと、知っておきましょう。産婦人科医、島岡昌幸先生の監修です。

監修者プロフィール

島岡昌幸
島岡医院(京都市南区)院長

「母と子がハッピーになってほしい」と願い、専門の周産期医療はもとより、育児や子どもの皮膚のことなど、日夜勉強を重ねている。母と子が集い学び楽しむ「親育ち、子育ち」の場も多数企画。1970年関西医科大学医学部卒業。同大学附属病院産科主任、大阪府済生会泉尾病院産婦人科医長、奈良東生駒病院初代院長を経て、1983年、島岡医院院長。

妊娠9ヶ月(妊娠32週、33週、34週、35週)の
胎児の様子

妊娠32週:胎児を守る羊水の量がピークに!

妊娠32週0日の胎児の大きさ/体重1368g~2243g(*)

妊娠32週を迎えると、羊水の量はピークを迎えます。その量1000ml! ピークは妊娠36週ごろまで続き、その後、少しずつ減少します。

羊水の役目、役割とは

羊水に含まれる成長因子が、胎児の成熟を助ける

羊水は水分の他に、胎児の成長を助ける成分(電解質・アミノ酸・脂質など)も含んでいます。胎児は羊水を飲みこんでこれらの成分を肺や腸で吸収し、誕生後の呼吸や栄養吸収の準備を整えています。

胎児の体や臍帯を守る

胎児は羊水のおかげで、体を傷つけることなく動くことができます。臍帯がこすれて傷つかないように守っているのも羊水です。

外からの圧迫から守る

外から圧迫されたときの影響が少なくてすみます。ラッシュアワーでおなかが押されたり、転んでしまつたり、事故にあってしまったときでも、羊水がクッションの役目をはたしてくれます。

妊娠33週:眠りの質が発達する

妊娠33週0日の胎児の大きさ/体重1508g~2451g(*)

胎児は、妊娠28週ごろから寝たり起きたりしていますが、妊娠32~33週ころからは、およそ40〜90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すようになります。妊娠36週以降になると、眠りのリズムはさらに安定して、出産予定日が訪れる妊娠40週にほぼ完成します。
レム睡眠は動睡眠といって、眼球が動く、体がぴくつくなど体の動きを伴う眠り。ノンレム睡眠は、静睡眠で体はほとんど動きません。以前は、レム睡眠は脳が活動するときの眠り、ノンレム睡眠は脳が休むときの眠りといわれましたが、どちらの睡眠でも、働く場所が違うだけで、脳は活発に働いていることがわかってきました。

胎児の眠りは、脳の発達と関係している

胎児期の赤ちゃんの眠りは、子宮の壁ごしに目でキャッチする光センサーと、そのシグナルを受け取る脳の睡眠中枢の協同作業で発達します。

誕生後の赤ちゃんの体や脳の成長を支えるのが、概日(がいにち)リズムです。生物時計ともいって、「朝、明るくなれば目覚める。夜、暗くなれば眠る」大切なリズムです。この概日リズムの発達の土台になるのが、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す、眠りの質なのです。

妊娠33週4日の3D超音波写真です。赤ちゃん、パッチリ両目を開けて、眠りから覚めて起きているみたい。妊娠34週ごろには新生児と同じぐらいの視力があるとか…。

妊娠34週:肺の働きが、ついに成熟!

妊娠34週0日の胎児の大きさ/体重1650g~2663g(*)

妊娠34週になると、肺の中の肺胞(はいほう/ガス交換をするところ)をふくらませる「肺サーファクタント」という成分が十分に作られるようになります。胎児の肺の働きが成熟! 水の世界から空気の世界へ旅立つ準備が整い、いつ生まれても大丈夫な状態になります。

妊娠34週以降なら、いつ生まれても大丈夫?

肺サーファクタントは、誕生した赤ちゃんが肺呼吸をするときに必要な成分! 肺サーファクタントの産生量が、赤ちゃんが外界でスムーズに肺呼吸できるかどうかの目安になります。

胎児は、ガス交換(酸素と二酸化炭素を交換すること)を胎盤に頼っていますが、出生と同時に、肺胞でガス交換をしないといけません。この肺胞を十分にふくらませ、働きやすくしてくれるのが肺サーファクタントです。

肺サーファクタントは妊娠30週ころから肺胞で作られ始め、妊娠34週ごろから急増します。もし、予定日前に生まれても、妊娠34週以降なら、赤ちゃんは人工呼吸器に頼らず、自力で呼吸できるワケです。

妊娠35週:発育の個人差が大きくなる

妊娠35週0日の胎児の大きさ/体重1790g~2875g(*)

妊娠35週にはいつ生まれても大丈夫なぐらいまでに成長しますが、発育の個人差が大きくなります。多くは正常範囲の個人差ですが、心配なときは検査をします。

推定体重

超音波検査で、児頭大横径、腹部周囲長、大腿骨の長さを測って推定体重を出します。妊娠週数の割に体重が少ない胎児発育不全(FGR)が疑われる場合には、さらに詳しい検査をします。

胎児評価

胎児が元気かどうかを調べることを「胎児評価」といいます。一番簡単で頼りになるのが、胎児の心拍数を調べる胎児心拍数モニタリングです。母体のおなかにつけたセンサーを「分娩監視装置」という機械に連動させて、胎児の心拍数を調べます。普通はNST(ノンストレステスト)といって、特別なストレスがない状態の胎児心拍数を測定します。

分娩監視装置とは?

分娩監視装置にはいろいろな機能があります。母体のおなかにつける2つのセンサーのうち、ひとつは胎児の心拍数をキャッチ!「胎児心拍数モニタリング」と呼ばれます。もうひとつは、母体の子宮収縮をキャッチします! 妊娠後期になると子宮は軽い収縮を繰り返します(ママはおなかの張りとして感じます)。この装置を使うと、子宮収縮の強さや間隔、リスクのある子宮収縮かどうかなどがわかります。

お産が始まると、分娩監視装置は名前通りに分娩を監視するための必須アイテムになります。胎児が苦しがっていないか、母体の子宮収縮が弱すぎたり、強すぎたりしないかどうかを判断するためです。分娩監視装置は、胎児と母体と分娩進行を監視する装置なのです。

NSTで赤ちゃんの元気を確認する!

NST(ノンストレステスト)は、ストレスのない状態で胎児の心拍数を測り、赤ちゃんが元気かどうかを評価します。妊娠34~36週ごろに行います。このころの赤ちゃんは20~40分ごとに睡眠と覚醒を繰り返しています。赤ちゃんが起きていて体を動かす胎動があると、一過性の頻脈(ひんみゃく/心拍数増加)が現れます。ママは胎動を感じたらボタンを押します。基本的には、胎動に伴って一過性頻脈が出現すると、赤ちゃんは元気!(well being)と評価します。

ときには、検査の間中、眠り続ける赤ちゃんもいて、腹壁ごしに音を聞かせて起こすこともあります。

妊娠9ヶ月のママの状態

胃のもたれ、動悸、息切れなどが出てくる

今月の終わり(妊娠35週末)ごろになると、子宮底長は、30~32cmほどになります。子宮がみぞおちのあたりまで上がってくるので、胃や肺を上にもちあげ、心臓を圧迫するようになります。このため、胃がもたれる、動悸、息切れなどの症状が強くなります。

胃が子宮に押されると1回に食べられる量が減ります。過食をしないように、1回の食事量を抑えてくれる胃からのサインと受け止めましょう。

腰が痛くなったり、足がつったり

尿が近くなったり、尿がもれたり

子宮が膀胱(ぼうこう)を圧迫して容量が少なくなり、尿が近くなります。排尿後に尿が残っているような残尿感を感じることも。尿意を我慢していると、膀胱炎などの原因になります。外出先、仕事中でも、トイレはがまんしないようにしましょう。

また、くしゃみや咳など下腹部に力が入ると、尿が少しもれることもあります。腹圧性尿失禁といって、お産が近くなると起こりがちです。ホルモンや大きくなった子宮の影響で、内臓を支えている骨盤の底にある筋肉(骨盤底筋群)がゆるんだり、疲労したりするので、尿がもれやすくなるのです。

もともと男性より尿道が短い女性は、骨盤底筋のゆるみで、尿もれが起こりやすいのです。尿もれパッドを使う、下着をまめに替えるなどの対策をしましょう。

破水に注意しよう

妊娠9ヶ月のママがしたほうがいいこと、
注意するべきこと

毎日、胎動をチェックしよう!

胎動は赤ちゃんからママへ届く「元気通信」です。もし、胎動が少なくなると、ときには赤ちゃんの元気度が低くなっている心配もあります。妊娠32週からはできるだけ毎日、胎動チェックをするようにしましょう。

胎動の測り方と記入法

  • 「トントン…」「カサッ…」などの小さな胎動ではなく、「グニュ~!」と大きな胎動を1回と数える。
  • 静かに横になって測る。ゆったり落ち着いているときのほうが、赤ちゃんの動きがよくわかるので、夜、寝る前でもいい。
  • 赤ちゃんが1回目に動いた時間をメモしておき、10回動くのにかかった時間をチェックする。長くても40分以内のことが多い。
  • 折れ線グラフにして記入する。

    記入例

    通院する病院で専用の用紙をもらったり、アプリを利用したりして記入しよう。下記よりダウンロードも可。

注意事項

  • 10回動くのに40分以上かかった場合は時間を変えて、その日のうちにもう一度測りなおしてみる
  • それでもなお40分以上かかるようなら、数値を記入して、かかりつけ医を受診する
  • 40分未満なら、記録を続ける

おなかごしに手や足が突き出てくることも

胎児の体が大きくなり、頭を下にした頭位に落ち着くと、胎児の運動はかなり制限されてきます。手やひじ、足やひざで子宮壁を押し出すような動きが多くなります。「これって、赤ちゃんのひじ!? 足!?」とびっくりすることも! ポコッとおなかの一部が盛り上がったり、グニュグニュッとおなかの表面が波打ったり、おなかが部分的にかなり大きく動くようになります。

里帰り出産は、妊娠34週ごろまでに帰郷

里帰り出産をするときは、できれば妊娠9ヶ月のうちに、遅くても妊娠34週ごろまでには帰省するようにしましょう。お産する予定の病院でできるだけ多く妊婦健診を受けて、妊娠経過を十分に把握してもらい、安全なお産につなげましょう。

妊娠中期以降の妊婦健診は、通常、妊娠24週から35週までは2週間に1回、妊娠36週以降は1週間に1回受けます。妊娠9ヶ月の初めに帰郷すれば、入院までに5~6回は健診を受けられます。

働いている場合、産休(産前産後休業)は出産予定日の6週間前からとれるので、妊娠34週には帰郷できて、4~5回は妊婦健診を受けられます。

パートや派遣でも産休をとれる!

産休は、パート社員や派遣社員、契約社員のママも対象になります。また、出産手当金は、出産日以前の6週間/42日(多胎の場合は14週間/98日)と、産後8週間/56日について対象になります。
出産が予定日より遅れた場合は、遅れた期間も仕事を休み、給料を受けられなかったのであれば、その期間の分も支給されます。

【産休などについては下記もチェック!】

おりものが増えたら要注意!

ふだんよりおりものの量が増えたり、黄色みを帯びたりしたときは、かゆみなどの症状がなくても早めに診察を受けましょう。「細菌性腟症」といって、とくに症状のないままに細菌が増えていることがあります。細菌性腟症であっても、母体には何も困ったことは起きません。

しかし、細菌が子宮のほうへ上がり、卵膜(赤ちゃんを包む膜)に炎症が起こると、子宮口が柔らかくなったり、開いてきたり、卵膜に穴があいて破水したりするため、早産につながる心配があります。早産の大半は、この細菌性腟症による卵膜の炎症(CAM)が原因とわかってきました。

最近は、腟分泌物の検査で細菌性腟症を早期発見したり、早産の兆候をいち早くキャッチする検査法ができるとともに、炎症を抑えて早産を防ぐための治療法もあります。細菌性腟症と診断されても、必要以上に心配せず、指示された治療をきちんと受けましょう。

出産準備のための検査はきちんと受けて

妊娠後期の妊婦健診では、お産に備えていろいろな検査が加わります。たとえば、母体に出血傾向がないかどうか、新生児の頭蓋内出血、新生児メレナになりやすいかどうかのチェックなどがあります。超音波検査では、胎児の位置や姿勢(胎位・胎向)だけでなく、母体の子宮頸管が短くなっていないかどうか(展退率)などを観察して、お産の準備がどのぐらい整っているかを調べることもできます。

また、B群溶連菌感染症(GBS)、クラミジア感染症、性器ヘルペス感染症など、産道感染といって、出産時にママから赤ちゃんに感染する可能性のある病気がいくつかあります。いずれも赤ちゃんに感染すると重症になる心配があるので、お産を控えて必要と勧められた検査はきちんと受けるようにしましょう。

参考:(*)日本超音波医学会「妊娠週数毎の基準値」より
『ギルバート発生生物学』『ラングマン人体発生学』『最新産科学』『新発生学』『病気がみえる<産科>』など

取材協力/島岡医院(京都市南区)スタッフの皆様、NPO法人チャイルドトラスト

 

update : 2018.04.16

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