妊婦のクラミジア検査と医師Q&A
クラミジア感染症は、特に女性の場合は自覚症状があまりない病気。ママが感染していても気づかないことがあります。でも、治療しないまま経腟分娩をすると、赤ちゃんに感染する心配が! 症状の軽いママと違い、赤ちゃんがクラミジアに感染すると肺炎などを起こして、ときに命にかかわることもあるのです。
出産までに薬を飲んで治療すれば母子感染は防げますから、思い当たる症状がなかったとしても赤ちゃんのために検査を受けておきましょう。
クラミジア検査
クラミジア検査には、抗原と抗体を調べる検査があるが、赤ちゃんに感染するかどうかには子宮頸管の抗原を調べ、クラミジアが感染しているかどうかを調べる。もし、陽性(感染)の場合には出産までに治療を完了しないといけないので、検査は妊娠30週頃までに行う。
検査時期 | 妊娠中期(妊娠30週まで) |
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検査方法 | 細長い検査器具(綿棒)で子宮頸管の粘膜表皮細胞をこすりとる |
検査内容 | クラミジア・トラコマティスの感染の有無を調べる |
検査結果 | 基準値:陰性(-) |
母子健康手帳の 記入例 |
クラミジア検査:陰性(-)または陽性(+) |
- ※妊婦全員が受ける必須の検査ではないが、女性は感染していても自覚症状がないことが多いので、多くの医療機関で検査を勧めている。
もっと知りたいクラミジア検査!Q&A
クラミジア感染症はどんな病気ですか?
クラミジア・トラコマティス(以下:クラミジアと略します)という病原体の感染で起こる病気をまとめて「クラミジア感染症」といいます。性器クラミジア感染症のほか、あとで説明する新生児クラミジア結膜炎や新生児クラミジア肺炎も、クラミジア感染症です。原因になるクラミジアの種類は全く違いますが、ペットの鳥から移るオーム病もクラミジア感染症のひとつです。
妊娠中の30週頃までに検査をするのは、どうしてですか?
経膣分娩のときに赤ちゃんに産道で感染する可能性があるので、分娩時までに抗生剤を飲んで、きちんと治療を完了するためです。治療期間は通常2~3週間。検査結果は数日でわかりますが、治療に急を要する病気ではないので、普通は次回の妊婦健診で薬が処方されます。出産予定日から逆算して、妊娠30週頃までには検査を済ませたいわけです。
検査の具体的な方法を教えてください。
内診台で受けます。腟鏡で膣を少し拡張し、細長い検体採取器具(綿棒)を挿入して、子宮頸管の表皮細胞をこすりとります。人によっては少し出血することがありますが、心配はいりません。痛みはほとんどありません。
赤ちゃんに感染して、新生児クラミジア肺炎になると怖いって本当ですか?
原因がクラミジアに限らず、生後間もない赤ちゃんの肺炎は重症化しやすいので怖いのです。新生児クラミジア肺炎は早いと生後2週、遅くても12週以内に発症します。しかも、熱が出ないことがあるので見逃すことがあります(無熱性肺炎)。突然呼吸が止まることがあります(無呼吸発作)。命にかかわることもあるのです。
陽性の場合、出産の時に赤ちゃんに移るのはどうしてですか?
クラミジアは細胞の中に住みついて増殖する性質をもっています。女性の場合、クラミジアに感染すると、子宮頸管の内側を覆っている表皮細胞にクラミジアが住みつきます。子宮頸管は腟に続く子宮の入り口にあたる部分で、赤ちゃんにとっては子宮からの出口になります。経腟分娩では赤ちゃんは子宮口から出て、子宮頸管と腟を通って生まれます。子宮頸管にクラミジアがいると赤ちゃんに感染する可能性があります。こういう感染の仕方を産道感染といいます。
産道感染のプロセスを詳しく教えてください。
赤ちゃんは子宮の中で卵膜に包まれていて、卵膜が破れない限り、赤ちゃんは無菌の清潔な環境の中にいます。経腟分娩ではこの卵膜が破れて羊水が流れ出し、赤ちゃんは子宮口→子宮頸管→腟というように下降します。さて、赤ちゃんの顔には目と鼻の穴、耳の穴が2つずつ、口がひとつありますね。赤ちゃんが産道を通る間に、子宮頸管にいるクラミジアがここに入り込みます。目に入ると結膜に、鼻や口に入ると咽頭(のど)やもっと奥の肺に、耳に入ると中耳にクラミジアが感染します。このため、新生児クラミジア結膜炎・咽頭炎・肺炎・中耳炎などが起こってくるのです。
赤ちゃんに移さないためにはどうしたらいいですか?
検査を受け、万一陽性とわかったら、きちんと処方された抗生剤を飲んで治療すれば、赤ちゃんに移す心配はまずありません。怖いのは、妊娠中に検査を受けずに感染を知らないまま、あるいは出産直前の性行為で感染したのを知らないまま、経腟分娩をした場合です。女性の大半は感染しても症状が出ないので、自分は性器クラミジア感染症とは無縁!と思わずに、念のために検査を受けましょう。
感染したときの症状を教えてください。
●女性
感染から1~3週間で子宮頸管に炎症が起こってきます。ただ、全く症状が出ないことが多いのです。おりものが増える、不正出血(月経以外の出血のこと)、下腹部の痛み、性交痛などが出ることがありますが、軽いことが多く、また普段でも経験する症状なので、クラミジア感染と結び付ける人はほとんどいないといっていいでしょう。
●男性
感染から1~3週間で尿道に炎症が起こってきます。尿道から膿のような分泌物が出たり、かゆみや不快感があることもありますが、どれも症状は軽いことが多く、全く自覚症状がないケースもあります。このため、女性同様に男性も感染を知らないままでいる人も多いのです。
性器クラミジア感染症は増えていますか?
1987年の調査開始以来、ずっと右方上がりで増えてきましたが、2002年以降は徐々に減少しています。ただ、本当に減っているのではなく、現在の検査法では見つかりにくい変異タイプのクラミジアによる感染が隠れている心配もあるそうです(2008年/国立感染症研究所感染症報告センター)。いずれにしても、10代後半から20代の女性に多く、高校生女子の13%は無症状の感染者という報告もあります。
妊娠中に感染がわかる人はどのぐらいいますか?
2004年の報告では、妊婦検診を受けた正常経過の妊婦の3~5%にクラミジア感染があったということです(国立感染症研究所)。ただ、これは定点調査といって、ある一定数の病院からの報告を集計したものです。すべての産婦人科で調べるともっと多いかもしれません。また、妊娠中にクラミジア検査を受けるのは、全体の60%程度ともいわれているので、全員が検査を受けるとさらに多くなる可能性もあります。
陽性の時は夫も検査したほうがいいですか?
妊婦健診で妻が陽性とわかったら、夫も必ず検査を受けましょう。ピンポン感染といって、どちらかの治療が不完全な場合、夫から妻へ、妻から夫へと感染を繰り返す可能性があります。夫婦が同時にきちんと治療を受けることがとても大切です。
いつ感染したのか、わかりますか?
男女ともに感染しても自覚症状が少ないこと、あっても軽い病気なので、いつ感染したのかはわかりにくいのです。もちろん、過去も含めてパートナーが夫ひとりに限られる場合ははっきりわかりますが、陰性だった夫に妻が移した可能性もあるわけです。クラミジア感染がわかると、どちらが感染源かでもめるケースがありますが、今はそのときではありません。赤ちゃんに感染させないための検査なのです。赤ちゃん第一に考え、予防や治療に努めましょう。
産後はどんな注意をしたらいいですか?
産後、性生活を再開した時に夫が感染源にならないように! 夫の治療が完了していないと再感染する心配があります。なお、夫婦ともに確実に治療を完了していれば再発のリスクはないとされています。
不妊の原因になるって本当ですか?
初めは子宮頸管に感染しますが、治療しないでいると、子宮内膜→卵管へと徐々に奥のほうに感染が進みます。とくに卵管に感染が届くと卵管が細くなったり、詰まったりして不妊の原因になります。その意味で妊娠できたのはラッキーですし、妊娠中の検査で見つけて治療できるのもラッキーなこと! 今の妊娠で赤ちゃんへの産道感染を防げるだけでなく、次の妊娠に備えることもできます。
取材協力/国立成育医療センター(世田谷区)
監修/久保隆彦先生(国立成育医療センター 周産期診療部産科医長)
update : 2009.12.02
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