早期流産について【妊娠中の病気やトラブル】
赤ちゃんの誕生を待つ妊娠生活は幸せだけど、心配も尽きません。特にママをドキッとさせるのが、妊娠初期に起こりやすい出血。少量であっても、「これって病気?」「おなかの赤ちゃん、大丈夫?」と不安な気持ちでいっぱいになってしまうこともあるでしょう。流産のことなんてできれば考えたくないものですが、いたずらに不安にならないよう知識だけは持っておきましょう。
ここでは、早期流産を乗り越えた先輩ママたちの体験談とともに、ドクターに聞いた流産のとらえ方や兆候、気を付けたい流産を招くリスク因子をご紹介します。
取材協力・監修
中井章人(なかいあきひと)先生
昭和58年、日本医科大学卒業。日本医科大学教授。日本医科大学多摩永山病院副院長、女性診療科・産科部長を経て、2018年より同病院院長。日々の診療のかたわら、『周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理』などの著書を手がけたり、周産期医療の分野で政策の課題解決にも尽力する。
切迫流産・流産体験談「わたしの場合」1
杉並区に住むYさんは、第一子が2歳半をすぎたころ、妊娠検査薬を使って妊娠5週とわかりました
「すぐに産婦人科に行ったのですが、胎嚢がまだ見えなくて、2週間後の7週に再診。このときは胎嚢は見えたものの、赤ちゃんの形がまったく確認できず、翌週、翌々週と診察を繰り返しましたが、赤ちゃんの姿は確認できませんでした」(Yさん)
9週に入っても心拍はおろか、赤ちゃんの形がほとんど確認できず「育っていませんね…」という医師の言葉に落胆するYさん。自然に流れるのを待つか、手術で掻把(そうは)するか、と聞かれたので、Yさんは自然に流れてくるのを待つことにしました。
「10週の直前に、ギューッとする痛みがあって、あっ陣痛だ!って思いました。すぐに生理2日目くらいの出血があって、出血したあとには後陣痛のようなものも1週間くらい続きました。ちょうどお正月で家族が一緒に過ごしてくれたので気が紛れましたが、1~2ヶ月は気分が塞いでいました」(Yさん)
現在は第二子を無事出産し、二人兄弟のママに。第二子の妊娠では、5ヶ月に入ってから1回だけ出血があったそうですが、安静にして過ごして事なきを得たそうです。
切迫流産・流産体験談「わたしの場合」2
埼玉県のKさんは、3回の早期流産を経験。1回目は4週に入ってすぐ検査薬で陽性が出たものの、胎嚢が見つからず、子宮外妊娠が疑われたため7週で掻把。この処置で妊娠反応がなくなり、子宮内に赤ちゃんのいた跡が確認されたため、流産となりました。
「2回目の妊娠では胎嚢が針の穴くらい小さくて…。育たないかもね、とお医者様にいわれ、その通り、状態は進みませんでした。結局また掻把。そして3回目の妊娠。このときは少し胎嚢が大きくなったけれど、結局赤ちゃんの姿を見ることはなく、1回目、2回目と同じ結果になりました」(Kさん)
4回目の妊娠では、7週に入るころに生理2日目のような出血。しかし胎嚢はこれまでで一番大きくなっていて、心拍の確認もできたそう。すぐに絶対安静1ヶ月!を言い渡されます。
「実家の母に来てもらって、ほぼ1ヶ月間、トイレと食事と健診以外ではベッドを出ませんでした。つわりも始まっていて、妊娠3ヶ月いっぱいは寝たきり。でも、その後はトラブルもなく順調でした!」(Kさん)
現在、Kさんは二人兄弟のママ。第二子の妊娠中は出血も痛みもなく、アクティブな妊娠ライフを満喫したそうです。
切迫流産・流産体験談「わたしの場合」3
板橋区のTさんは、妊娠8週に入ったところで、切迫流産と診断されました。
「少量の出血に気づいたので、翌日に産婦人科を受診しました。量も少ないし、けっこう軽く考えていたのですが、予想外に“妊娠5ヶ月までの安静”を言い渡されて、びっくり! 止血剤とはり止めを処方していただき、家でじーっと寝ていました」
原因はいまだ不明。「早く安定しないかな」とひたすら祈り続け、5ヶ月の検診で安静解除となったときは、心の底から嬉しかったそう。
「その後はトラブルもなく、無事に長女を出産。さらに2学年違いで長男も出産しましたが、こちらは特に出血も痛みもありませんでした」(Tさん)
12週までの流産は、変えられない運命
お産はまさに十人十色。10人いれば10通りの妊娠があります。
当然、流産にもさまざまなパターンがあり、比較的早期に子宮の外へ流れてしまう「完全流産」もあれば、お腹の中にとどまったまま赤ちゃんが育たたなくなる「不完全流産」(稽留流産など)もあります。また不正出血やお腹の痛みがあるなど“流産に近い状態”である「切迫流産」を乗り越えて、無事に出産へたどり着く人ももちろん、たくさんいます。
「流産(22週未満)の確率は、全妊婦の15%です。妊娠した女性の7人に1人は流産してしまう計算です。このうちの大部分が、妊娠12週未満で流産する“早期流産”です。早期流産は、残念ながら、どんな治療をもってしても食い止めることはできないのです」と、中井先生。
早期流産の原因のほとんどは、胎児側にあって、7割が染色体異常、成長の途中でエラーがおきて破たんしてしまうケース。元気に成長することが難しい受精卵が、自然淘汰されてしまうのです。
「超音波検査や妊娠検査薬が確立し、普及したのは、最近のこと。数十年前までは、それこそ妊娠中期まで妊娠に気づかない、なんてことが普通にあったのです。流産をしても、その自覚はあまりなく、生理が遅れたけどようやく来た、今回はちょっと経血が多かった、といった感覚ですませていたことも多かったのです」(中井先生)
医療技術の進歩で、多くの命が救われるようになった一方、昔は気づかれにくかった早期流産がわかるようになり、悲しい経験をする女性が増えたのですね。
発症時期による流産の分類
せっかく宿った命。食い止める方法はないの?
12週までの流産は、一定の確率で起こる生命の営みの「エラー」。くい止める治療法はない、といっても、せっかくお腹の中にやってきてくれた命です。じっと手をこまねいているしか、方法はないのでしょうか?
「医師や医療機関によっては、張り止めや止血剤、ホルモン剤などを処方するところもあります。安静を指導するドクターもいるでしょう。少しでも妊婦さんを安心させたいという想いからのことだと思うのですが、私は、このことで“治療できるんだ!”という期待を抱かせることになって、かえって酷なのではないかと考えてしまいます。12週までは、治療してもしなくても、安静にしてもしなくても、流産する運命のいのちは、流産してしまうのです。治療したり過度の安静を妊婦さんに強いれば、その分、期待が膨らみ、流産したときのショックが大きいこともあります」(中井先生)
精神的なショックのほかに、薬を使うことによる副作用も気になる、と中井先生。薬というのはどんな薬も、副作用を上回るメリットがあると判断されるときに使用するもの。メリットがないとわかっているのに使うということは、副反応のデメリットだけが残ることになるのです。
「妊娠初期に、おなかの張りや出血に対して薬を処方しているのは、世界でも日本ぐらいなのです。早期流産には治療法がない、ということを、医師のみならず、妊婦さんたちにもわかりやすく知らせていかなくては」(中井先生)
こんなときはどうしたら?早期流産の兆候チェック!
子宮の異変は、ほとんどの場合「出血」と「下腹部痛」で知ることができます。妊娠を確認したうえでの12週までの早期流産の場合、救急車を呼んだり、夜中に救急外来などにかからず、「診療時間内の受診でいい」といいます。
でも、出血や下腹部痛があったら、やっぱり心配。どんなとき、どう対処したらいいのでしょう。中井先生に、症状と受診の目安を聞きました。
出血の量の目安は、いつもの生理2日目程度の量に比べて、それより多ければ「多量の出血」、少なければ「少量の出血」。下腹部痛も同じようにいつもの生理2日目と比べて、それより痛いと「強い痛み」、それほど痛くなければ「軽い痛み」とします。
- 少量の出血、軽い下腹部痛がある
→診療時間内に産婦人科を受診。胎嚢が子宮内にあり、子宮口が開いていなければ「切迫流産」と診断される。流産するかどうかは、子どもの力次第。経過を見守る。 - 比較的多めの出血があり、お腹がギュッと絞られるような陣痛に似た下腹部痛がある
→診療時間内に産婦人科を受診。内診や超音波検査で、「進行流産」と診断されるなど、妊娠継続が不可能と判断されれば、子宮内を掻把(そうは)する手術を行うか、自然流産を待つ。子宮内に残っている胎嚢や胎児部分が多ければ、手術が選択される。 - 出血も下腹部痛もないが、超音波検査で赤ちゃんが成長していなかったり、枯死卵が見つかる
→「稽留流産」と診断される。妊娠継続が不可能なため、子宮内を掻把(そうは)する手術を行うか、自然流産を待つ。 - 超音波検査で胎嚢が認められず、強い下腹部痛がある
→子宮外妊娠の疑いがあります。すぐに救急外来へかかる。出血はある場合も、ない場合もある。
運動や仕事はOK?流産を招くリスク因子とは
12週以降の後期流産や22週以降に起こる早産とは違い、12週未満の早期流産には、「これ」といったはっきりしたリスク因子が見つかっていません。唯一いえるとすれば、母体が高齢であること。流産の発生頻度は15%ですが、母体の加齢とともに増加します。
「12週までは、普段と変わらない生活を送って大丈夫です。カナダの女子アイスホッケーの選手規約では、妊娠しても12週までは試合に出ていい、と明記してあるくらいです。あんなに激しいスポーツでも、12週まではいつも通りに試合をしていいのです。ただし12週を過ぎたら試合は禁止。でもチームに同行してトレーニングはしてください、と書いてあるそうです。12週以降になると、それまでの6~7割の負荷の運動なら行えるというのが、世界のスタンダードな考え方なのです」(中井先生)
12週を過ぎると、児が原因となる流産の頻度が減り、母体が原因となる流産の頻度が増加します。お腹が張りやすい深夜の仕事は避ける、などの注意が必要になってきます。また、お腹が大きくなってくると体のバランスも変わるので、自転車など転倒の恐れのあるものはリスクが高まります。
「でも、喫煙・飲酒は妊娠がわかったらやめましょう。これらは流産のみならず、妊娠・出産の多くのリスクを上げることがわかっています。仕事で放射線などに携わる人も職場に相談して勤務体制を変えてもらってください」(中井先生)
人間も生き物。命の営みには抗えません。
12週までの妊娠初期の「少量の出血」は、流産した人にもしなかった人にも、どちらにも30%の割合で起こるといいます。出血があったから、流産するとは限らないのです。流産するかどうかは、運命に任せるしかない――。薬も安静も効果がない――。ただ、推移を見守るしかない――。
リスクがわかっているのに、何もしない、何もできないことほど、辛いことはないでしょう。でもだからといって、科学的に効果がないとわかっている薬を使うのは、母体にとっても、流産せずに胎内で育つ胎児に対しても、いいことはありません。薬のデメリットだけが残るだけなのです。
できることは「祈ること」――。いのちを授かることは、「祈り」を知ることなのかもしれません。
中井先生は流産を経験した妊婦さんに、よくこんな風に言葉をかけるそうです。
「カエルの卵を想像してごらんなさい、と。カエルの卵が全部孵ったら、それこそ地球はカエルの国になっちゃいます。12週までに起こってしまう早期流産は、受精卵が細胞分裂していくときに、一定の確率で起こる自然淘汰です。受精した段階ですでに運命づけられていたものと受け止めて、どうぞあまり落ち込まないで。前向きに次の妊娠に目を向けてください」
流産という悲しい事実も、私たちが生物である以上、受け入れなければならない命の営み。そうであるからには、それを乗り越える能力も備わっているはずです。
不安、悲しみ、辛さ、苦しみさえも、生きる力、生きる強さに変えていく、しなやかな強さを持った母を目指しましょう!
取材協力・監修/産婦人科医:中井章人先生
update : 2020.03.05
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