妊娠糖尿病とは?原因や症状は?
妊娠をきっかけに血糖値が上がり、「妊娠糖尿病」と診断されるママは約12%。およそ8人に1人がなる決して珍しくない病気です。
妊娠中はママから赤ちゃんに十分なエネルギーを与えないといけませんが、ママの体でうまく血糖値をコントロールできずに、赤ちゃんに必要以上の栄養が届いてしまうのも問題です。赤ちゃんの発育に悪影響を与えたり、難産になったりといったリスクが生まれるのです。そうならないためには、どうすればいいのでしょうか?
ここでは、妊娠糖尿病を乗り越えたママの体験談とともに、ドクターに聞いた妊娠糖尿病のメカニズムや対策をご紹介します!
取材協力・監修
中井章人(なかいあきひと)先生
昭和58年、日本医科大学卒業。日本医科大学教授。日本医科大学多摩永山病院副院長、女性診療科・産科部長を経て、2018年より同病院院長。日々の診療のかたわら、『周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理』などの著書を手がけたり、周産期医療の分野で政策の課題解決にも尽力する。
妊娠糖尿病体験談「わたしの場合」1
東京都大田区のSさんは、初回の妊婦健診の血液検査で、血糖値が高いことがわかりました。1ヶ月後の再診のとき、「うちには血糖コントロールができる医師がいない」という理由で、転院を勧められました。
「転院先の病院で、すぐにインスリン注射と食事療法による血糖コントロール治療が始まりました」(Sさん)
産まれたときから大きめだったというSさん。妊娠したとき、体重は92kg。完全な肥満体でした。
「母も私と同じような体格で、成人病の糖尿病と診断されていました。でも私は、妊娠するまで糖尿病と言われたことはなかったのです。でも育ってきた環境を考えると、糖尿病になるべくしてなったのかな……と思いました」(Sさん)
朝昼晩の食事の前と後に、インスリンを打つ生活が始まりました。1日6回、サインペンのような細い注射を自分でお腹にプツンと打つのです。さらに毎食後、指先にチクッと針を刺して試験紙に血液を染み込ませて、糖の値も測定。この生活が妊娠初期から分娩数日後まで、1日も欠かさず続いたそうです。
「赤ちゃんは39歳でやっと授かった宝物。治療は本当に大変でしたけれど、絶対にこの子を産むんだ!という強い一心で頑張りました」(Sさん)
自分が健康でなければ育児もできない、という気持ちも湧きあがってきて、人生で初めてのダイエットにも挑戦。病院の栄養指導を受けながら、食事制限と運動を続け、妊娠しながら10kg近く減量しました。
そのおかげか、予定日の3日前に自然分娩で、3388gの元気な男の子を出産。すると血糖値はあっという間に下がったといいます。
産後、定期的な血糖チェックと通院を続けているSさんですが、日々の健康管理の成果か、数値は安定しているそうです。
「今の気がかりは、子どもの体質です。生後1ヶ月の健診で、すでに成長曲線をオーバーしていたんです。今は幼稚園児なのですが、クラスの中でかなり大きいほうです。これから肥満にならないように、ちゃんと管理しないといけない、と。自分を振り返って、そう思っています」(Sさん)
妊娠糖尿病体験談「わたしの場合」2
兵庫県のMさんは、妊娠18週で「軽い糖尿病」と診断されました。
「私はどちらかというとやせ型で、これまで健康診断でも、何もひっかかったことがない健康体でした。だから“糖尿病? ウソでしょ!?”という心境でした。ただ、母に聞いてみると、亡くなったおじいちゃんが糖尿病を持っていたかもしれないとのこと。遺伝的なものかもしれませんが、どうしよう…、赤ちゃんはちゃんと育つのだろうか…と不安でしかたがなかったです」(Mさん)
その後、「インスリン注射などによる治療は必要ない」と判断されたため、医師や栄養士の指導を受けながら1日の摂取カロリーを1600kcalに抑える食事療法をスタート。散歩など軽い運動も毎日続けて、太り過ぎないように気をつけて妊娠生活を送っていたといいます。
そのおかげで、臨月には血糖値も落ち着いて、無事に3500gの元気な女の子を出産しました。
妊娠糖尿病は、「ハハゴコロ」の病気です!
糖尿病というと、“生活習慣病”“成人病”の一つ、として、なんとなく知っていますが、妊娠糖尿病はそれとは違うのですか?
「妊娠糖尿病というのは、“ハハゴコロ”の病気なんです」と中井先生。
ハハゴコロ……?
「母心、です。母体というのは、赤ちゃんに栄養をあげたい!と本能的に思っています。赤ちゃんのいちばんの発育エネルギーはブドウ糖なので、それを最優先に赤ちゃんに届けるように働くのです。ところがバランスが崩れて、胎児に必要以上の糖分が届いてしまう。子を想う母心が行き過ぎて“甘やかして”しまう病気とも言えるのです」(中井先生)。
ブドウ糖はとても大事なエネルギー源ですが、血液中に増え過ぎると、さまざまな悪さをします。そこで、その量をコントロールするホルモンが、すい臓から出ています。インスリンです。
妊娠すると、胎盤からは、そのインスリンに対抗するホルモンが出てきます。すると血糖値を正常に保とうと、すい臓からインスリンが分泌されても、その働きが阻害されてしまい血糖値が上がったままになってしまうのが、妊娠糖尿病なのです。赤ちゃんのために、胎盤からホルモンがたくさん出れば出るほど、血糖値が上がってしまうことになります。
妊娠糖尿病になると、さまざまなトラブルを引き起こします。
- 赤ちゃん
先天奇形、発育遅延、巨大児、低血糖症、低カルシウム血症、胎児仮死、子宮内胎児死亡……。
- 母体
血管障害、流産、早産、妊娠高血圧症候群、脱水・意識障害・昏睡・ショックなどを起こす重大なケトアシドーシス……。
こうした重大な事態を招かないためにも、妊娠中の血糖を常に管理しておく必要があるのです。
妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠で違う、胎児の発育
「妊娠糖尿病」は、妊娠をきっかけにして糖尿病になりますが、出産すると症状が治まっていきます。
一方、もともと糖尿病を持っている女性が妊娠すると、「糖尿病合併妊娠」に。産後も糖尿病の症状が続きます。
「妊娠中の治療法そのものに大きな違いはありませんが、糖尿病合併妊娠の人は、妊娠するとそれまで飲んでいた薬が使えなくなります。胎児への安全性が確立されていないのです。ですから薬に頼らず、食事療法やインスリン注射などにより、厳しく血糖をコントロールしていく必要があります」(中井先生)
大きく違うのは、胎児の発育です。「妊娠糖尿病」は、赤ちゃんに糖分を送り過ぎてしまうので、巨大児になりやすいのですが、「糖尿病合併妊娠」では逆のことが起こります。糖尿病が長期におよぶと、血管の弾力性がなくなり、血流障害(心筋梗塞、脳梗塞など)を起こします。したがって、胎盤への血流などが悪くなり、赤ちゃんの発育が悪くなってしまうことがあります。
あかちゃんの低血糖に注意
「妊娠糖尿病」「糖尿病合併妊娠」のいずれの場合も、きちんとお母さんの血糖値がコントロールされていないと、赤ちゃんの血糖を正常に保つインスリンの分泌が多くなり、結果、血糖値が低すぎる状態で産まれてくることがあるのです。
「新生児低血糖というのですが、この状態で生まれてくると、大変危険です。また、お腹の中で育つと、将来、肥満や糖尿病など成人病になるリスクも高まります。ですから、妊娠中はお母さんの血糖値を厳しく管理する必要があるのです」(中井先生)
こんな人は要注意!妊娠糖尿病のリスク因子
妊娠糖尿病になりやすいタイプの人はいるのでしょうか? 次のような人は、妊娠前は正常値でも、妊娠をきっかけになるリスクが高いといいます。
妊娠糖尿病リスクの高い人
- 家族に糖尿病の人がいる
- 妊婦自身が巨大児で産まれている
- 妊娠前から肥満
- 過去に巨大児を出産した経験がある
- 胎児が標準的な週数の発育に比べて大きすぎる
- 35歳以上の高齢妊娠
妊婦健診では、毎回、尿検査で糖をチェックします。一度出たからといって、すぐには、妊娠糖尿病とは診断されません。食事の後の検査だったりすると出てしまうことがあるからです。
尿糖が連続して「+」が出たら、さらに詳しい血液検査を行い、次いで75g経口ブドウ糖負荷試験が行われます。空腹時にブドウ糖を飲み、1時間後、2時間後の数値を計って、その数値によって妊娠糖尿病かどうかを判定します。
妊婦健診を、病気予防、生活見直しのチャンスに!
妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠が怖いのは、自覚症状がないことです。動悸や息切れ、発熱やむくみなどの目立った症状がありません。
妊婦健診での検査だけが頼りなのです。
健診の尿検査で、尿糖「+」と出ると、ちょっと不安になるものです。でも、そのドキドキを生活を振り返るきっかけにしましょう。
妊娠糖尿病予防のための生活チェック!
- 規則正しい生活をしている?
- 軽い運動を取り入れている?
- 1日3食。主食・主菜・副菜をちゃんと食べている?
- 油分の多い洋食より、できるだけ薄味の和食にしてる?
- ほうれん草やひじき、小松菜など、鉄分の多い食品を食べている?
- 肉、魚、大豆製品、卵などの良質たんぱく質をちゃんと食べている?
- 海草やきのこなど、食物繊維も忘れずに。
- 塩辛いもの、インスタント、コンビニ食ばかり食べてない?
- デザートは、ケーキ、チョコ、クッキーより、バナナや和菓子に。
- フルーツもほどほどに。食べ過ぎは糖分取りすぎに。
ちょっと気をつけるだけで、毎日のチョイスが変わります。その結果、重症化を防いで、ママ自身と赤ちゃんを救うことにつながるのです。
妊娠糖尿病と診断されたら…
「妊婦の基準値が厳しくなったので、これまでの検査ならぎりぎりだいじょうぶだった人でも、糖尿病と診断されてしまいます。糖尿病治療の基本は、食事療法。その上で必要な場合にインスリン注射をすることになります。1日4回~7回、自分で注射をします。その方法を覚えるために数日入院することもあります」(中井先生)。
妊娠糖尿病は、妊娠高血圧症候群などと違って、安静治療は、必要ありません。それでも、“ハイリスク妊婦”といわれ、転院を進められるのは、長い妊娠期間にわたって継続的に血糖を確認したり、分娩中や出産直後の血糖をチェックする必要性があるからなのです。
「医療体制に加えて、治療にはママ自身のがんばりが不可欠です。血糖値の測定やインスリン注射は毎日、毎食のことで、手間もかかり、とても面倒です。でも、赤ちゃんのためにもがんばって自己管理に取り組んで欲しいと思います」(中井先生)
妊娠中は、空腹時血糖100mg/dl以下、食後2時間価120mg/dl以下、ヘモグロビンA1が9%以下、A1c5.5%以下にコントロールする。
将来の糖尿病リスクを今から減らそう!
妊娠糖尿病を発症すると、将来、糖尿病になる可能性が高くなります。確率は25%。
そう聞くと悲観的になりそうですが、逆にリスクが高いとわかったからこそ、今から予防に取り組める、と前向きに考えることもできます。
そのためには、ママ本人の出産後の健康管理がとても重要! 産後3ヶ月、6ヶ月……と定期的に内科や糖尿病外来などを受診して、血糖をしっかりチェックしていきましょう。
「育児は始まったばかり。お母さんは何といっても育児の要です。出産後も炭水化物を摂りすぎない、血糖値の上昇をゆるやかにする食材をうまく取り入れる、こまめに体を動かすなどして、健康管理を習慣づけていきましょう」(中井先生)
取材協力・監修/産婦人科医:中井章人先生
update : 2020.03.05
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