陰部静脈瘤について
ふと気がつくと、ひざの裏やふくらはぎがポコポコと膨らんでいたり、青や赤黒い血管が浮き出ていたり…。これが静脈瘤(じょうみゃくりゅう)です。年配の女性の足にできているのをときおり見かけますが、じつは妊娠中にも起きやすいのです!
静脈瘤は見た目もあまりよくないし、血の流れが悪くなるので、足のだるさがつらく感じるママも少なくありません。
ここでは、静脈瘤を乗り越えたママの体験談とともに、ドクターに聞いた静脈瘤のメカニズムやセルフケア方法をご紹介します。
取材協力・監修
大井理恵(おおいりえ)先生
平成12年、東京医科歯科大学卒業。旭中央病院産婦人科、国立成育医療研究センター、都立大塚病院等を経て、東京医科歯科大学特任助教(*2020年現在は、伊藤メディカルクリニック(大田区蒲田)に勤務)。「合併症など困難があって出産する方も、スムーズにお産できる方も、どんなお産でも、赤ちゃんが元気に生まれてきてくれたら、それがいちばんうれしい」と大井先生。これまで取り上げた赤ちゃんは約2000人にのぼる。胎児の超音波診断を得意とする。
静脈瘤体験談「わたしの場合」1
宮城県に住むSさん(34歳)は、3度目の妊娠中にふくらはぎの血管が浮き出ているのを見つけました。でも、それが妊娠期のいつごろだったのか……? 妊娠初期に東日本大震災に見舞われ、6歳の双子男児と3歳の男児の育児、さらに仕事にも追われていたので、定かな記憶はないと言います。
「そのうちに、今度は足の付け根の内側に、ポツンと青いでっぱりができて、それがだんだん大きくなっていきました」(Sさん)
いったいなんだろう?と思いながらも、放置。ようやく妊娠後期になって、医師に相談しました。
「大きさは、ピンポン玉くらいになっていました。歩くたびにすれて痛いので、ガニ股で歩いていたんです。このままだったらホントに困ると思って・・・」
医師の診断は、「たぶん、静脈瘤だろう。産後に回復すると思う。しなければ、そのときにまた考えましょう」というもの。
「産後はおさまるだろう」という返事に、ホッとしたSさん。仕事中は弾性ソックスをはき、帰宅後はお風呂で足をマッサージ。夜は足の下に折った毛布を置いて、足を高くして休んでいたそうです。
出産後、足の付け根の静脈瘤はすぐになくなりましたが、ふくらはぎの青い筋は、今も薄くですが、残っているといいます。
「もっと早くから弾性ソックスをはいたりしてケアしていたら、ひどくならずにすんだのかもしれません」
静脈瘤体験談「わたしの場合」2
東京都に住むAさん(36歳)は、3回の妊娠で、3回とも静脈瘤になりました。
1度目は後期から、2度目は妊娠6ヶ月頃から、3度目は妊娠4ヶ月から・・・と、妊娠のたびに症状は早く出てきて、しかもひどくなっていったそうです。
「できた場所は、3回とも右足の付け根の内側。2度目、3度目になると、血管の浮き上がり方がハッキリとして、色も青くなり、端のほうは赤紫色になりました。触るとぽっこりとしていて、最終的には3cm近くになっていました」(Aさん)
最初は、脱腸かも?と思っていたというAさん。インターネットで調べるうちに、静脈瘤だとわかったと言います。
1回目の妊娠では、なんとなく体が重いな、ときどき足がだるいなと感じる程度でしたが、2回目はつねに足がだるく、むずむずして気持ちが悪く、サポートタイプのタイツが欠かせなくなったそうです。
医師に相談したものの、「妊娠中はどうしようもない」といわれ……。Aさんはありとあらゆるセルフケアで乗り切っていたと言います。
タイツは、太ももまである着圧タイプ。足指マッサージ。夫や子どもに足首から太ももにかけ踏んでもらう。むくみ解消によいと聞いてカリウムを含む食品を積極的に食べる。足を高くして寝る。入浴して血行をよくする。足を冷やさない……。
しかし、それでも、だるさはなかなか抜けず、デパートなどに行っても、すぐに座って休みたくなってしまう。だるさでイライラしやすく、せっかくのショッピングも楽しめなかったそうです。
「いま思うと、筋力不足も大きかったと思います。妊娠前から意識して歩いたり、適度な運動をしておけばよかったかもしれません」
つらかった静脈瘤。ですが、
「産後は、すぐになくなったような気がします。というのも、産後しばらくは会陰も痛いし、おっぱいも張って痛い、乳首もすれて痛い。痛いところだらけで、気にしてなかっただけかもしれませんが…」
静脈瘤ってどんな状態? 妊娠中なりやすいのはなぜ?
脚の血管がコブのように膨らんだり、青や赤紫色に浮き出てクネクネと蛇行したりする、静脈瘤。いったいなぜ、起こるのでしょう?
「静脈というのは、血液を心臓に戻すための血管なのですが、ここには、ところどころに血液の逆流を防ぐ、逆流防止弁というのがあるのです。これがうまく働かなくなり、逆流したりして血液の流れが悪くなって滞ってしまう。これが大きな原因です」というのは、産婦人科医の大井理恵先生。
妊娠中は、体を流れる血液の総量が増えていきます。そのため血管もゆるむので、この逆流防止弁の働きが鈍くなるのです。さらに、子宮が大きくなると体の中心を流れる最も太い静脈(下大静脈)を圧迫するので、特に下半身から心臓へ還る静脈血の流れはますます悪くなります。
「だから、妊娠中期、後期になるにつれて、静脈瘤が目立ってくるのです」(大井先生)
外陰部や腟の中にできることも!
イボ痔も静脈瘤だった!
静脈瘤の多くは、ひざの裏、ふくらはぎ、太ももなどにできますが、外陰部や腟の中にできることも。
「外陰部や腟にも静脈が通っているからです。肛門にもできます。イボ痔は静脈瘤なんです」(大井先生)
イボ痔は静脈瘤だった、というのは驚き! 妊娠中は痔になりやすい、とよく聞きますが、妊娠中は静脈瘤になりやすい、という要因もあったのですね。
それにしても、こうした微妙な場所、外陰部や膣などにもできる…と聞くと、お産のときはだいじょうぶなのか、とても心配になります。いきんだり、赤ちゃんが通ったりするときに破けたりしないのでしょうか?
「もちろん、出血には注意します。でも実際、コントロールできないほどの大出血になった、というケースは、あまり聞いたことがありませんし、私自身もこれまで経験はありません。あまり心配しなくていいと思います」(大井先生)
筋力が弱い、立ち仕事、喫煙、肥満、便秘…
がリスクを高める
男性に比べると、筋肉の力が弱い女性のほうが静脈瘤になりやすいといいます。動脈と違って血管壁の弾力に乏しい静脈の血液が心臓にもどっていくためには、周囲の筋肉が収縮する力も必要だからです。
さらに、次のような人たちもリスクが高くなります。
日ごろから下半身の筋力が弱い人。また加齢とともに血管も老化するので、高齢で妊娠した人。第1子より第2子、第3子の妊娠。お産のたびに静脈瘤が目立つようになるのは、血管が弱く傷つきやすくなっているからです。
長時間の立ち仕事も、血液の戻りを悪くします。重力に逆らって血液を心臓に戻すのは、なかなかたいへんなのです。
肥満の人。太り過ぎるとお腹の中の圧力も高くなり、静脈を圧迫します。
タバコのニコチンは、血管を収縮させて、血流を悪くする元凶。冷えにもつながり、ますます血液が滞ります。
便秘も大敵。いきみを繰り返すことや便そのものが骨盤内に貯留することにより静脈に圧力がかかって、血液の流れを悪くして、静脈瘤であるイボ痔の原因になります。
静脈瘤になりやすい人はこんな人
- 下半身の筋力が弱い
- 高年齢の妊婦
- 経産婦
- 長時間立ち仕事をしている
- 肥満
- タバコを吸う
- 便秘がち
産後は自然に回復。
退院するころには、ほとんどが目立たなくなる
「静脈瘤は、お産がすめばほとんど自然に回復します。会陰や腟壁にできた場合でも、退院するときまでには、小さくなっています」(大井先生)
産後の1ヶ月健診のときに、静脈瘤がまだ気になっている、という人は本当に少ない、といいます。ただ、痔の場合は、1、2ヶ月間かかることも。痔の人は便秘のことも多く、どうしてもトイレでいきみがち。また体の冷えなどから、回復までに時間がかかることが多いようです。
「妊娠中にあわてて治療をする必要はほとんどないと思いますが、必要な場合は、産婦人科ではなく、血管外科や、静脈瘤治療の経験が豊富な皮膚科または形成外科などと相談します」(大井先生)
静脈瘤の治療法は、静脈血管に薬剤を注入して静脈瘤を消失させる方法や手術療法、またレーザー治療などがありますが、妊娠中に発症した静脈瘤で、分娩終了を待たずに治療しなければならないほどの状況になることは非常にまれだと考えられます。
セルフケアで防ごう! 軽くしよう!
できることはいろいろある
「治療の必要はない」とはいわれても、足腰が重だるい、むくむ、冷える…など、毎日のことだから、つらい! 出産までひどくなる一方なので、イライラも募ります。
「ですから、なんとか静脈瘤にならないように、またできてしまったら、できるだけひどくしないように、予防につとめてほしいと思います」(大井先生)
血流をさえぎるようなきつい下着やガードル、ジーンズなどはやめて、ゆったりした服を着る。妊娠したら早めにサイズアップをする。弾性ストッキングなどで、血流をサポートする。体を冷やさない。五本指のソックスなどで末梢の動きをよくして冷えを予防。立ち仕事の時間を短くする。足のマッサージをする。軽い運動、歩き、ストレッチで血流をよくする……。
「できてしまった静脈瘤は、触らずにそっとしておくのが基本です。マッサージなどで、その上を強くこするのは避けましょう。内出血の原因になります」
体力に合わせて体を動かすのはいいけれど、妊娠前にしていなかったような強い運動やエクササイズを、妊娠したからといってわざわざ始めるのはおすすめしない、と大井先生。
「妊娠は、それだけで体に負担がかかっているんです。妊娠前と同じ生活を保つだけで、エネルギーはよけいに必要なのです。妊娠中に運動するということは、子宮や胎盤以外に、手足や全身の大きな筋肉にも血液が必要になるということです。妊娠したからといって、わざわざ多くのエネルギーを使う運動を新しく始めることは、ありません」(大井先生)
取材協力・監修/大井理恵(おおいりえ)先生
update : 2014.07.02
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