羊水過多症とは?
赤ちゃんを守り、育てる海、羊水。羊水の量は少な過ぎても赤ちゃんの発育に影響しますが、多過ぎても心配です。羊水が多過ぎる「羊水過多症」になると、子宮が大きくなってママの体に負担がかかるだけでなく、早産や逆子のリスクも高まってしまいます。
安静にする必要のある羊水過多症。羊水がどのくらいまで増えたら診断されるのでしょうか?
ここでは、羊水過多症を乗り越えた先輩ママの体験談とともに、ドクターに聞いた羊水過多症の診断基準や、原因をご紹介します。
取材協力・監修
久保隆彦(くぼたかひこ)先生
国立成育医療研究センター産科医長。医学博士。岡山大学医学部卒業後、聖隷浜松病院NICU、高知医科大学助教授、国立大蔵病院産科医長を経て、現職。専門は、周産期医学、胎児・新生児学、周産期ME。ハイリスク妊婦・胎児の管理、母子感染予防、メンタルヘルスにも取り組む。妊娠中のリスクを自己診断する「妊娠リスクスコア」も開発。熱血、人情あふれる医師。
(*2020年現在は、シロタ産婦人科名誉院長)
羊水過多症体験談「わたしの場合」1
東京都Yさんは、29歳の初めてのお産で、羊水過多症と診断されました。妊娠6ヶ月に入る少し前でした。
「おなかが急に大きくなったな、と思ってはいたのですが、病院で腹囲を測った看護師さんがびっくりして、お医者さんが測りなおしました。病気への知識は全くなかったので、不安になりました」
大きな病院に転院し、一週間検査入院をしたYさん。腎臓のMRTをとったり、一日の尿量を検査したりしましたが、結局原因が分からず、さらに違う病院を紹介されたそうです。
「そこで、さらに細かい検査をしました。超音波で胎児の状態を細かくチェックし、胎児がおしっこを出す間隔をチェックしたりしました。その後、破水しやすいということで、家で安静に過ごしていました。週に1度は検診に行っていたので、あまり不安はなかったです」
8ヶ月に入ってからは、出産まで管理入院ということで入院。ところが、1週間ほどしたら、羊水量が徐々に減っていき、ほぼ通常までになり退院となりました。
お産は、予定日が過ぎても陣痛が来なかったため、小児科医が常駐している昼間に出産した方がいいということで、促進剤を使って出産。経膣分娩で5時間半だったそうです。
「お産のときは弛緩出血が起こって、輸血直前の状態でした。貧血状態だったので、母乳もなかなか出ませんでした。いろんな方に、大変だったねと声を掛けていただきましたが、1人目だったこともあり、当時はあまりピンときませんでした。でも、下の二人は問題なく出産までいけたので、今思えばあのときは大変だったし、無事に出産できてよかったです」
羊水過多症体験談「わたしの場合」2
北海道のTさんは、32歳で妊娠8ヶ月に入ったときの健診で、羊水過多症と告げられました。
「先生は、少し多いんだよねぇ~と軽い感じだったので、そのときには事の深刻さをあまり感じませんでした。でもネットで調べていくうちだんだん不安でいっぱいになってきました。自覚症状としては、とにかくお腹が大きくなったことですね」
2人目の妊娠だから、初産のときよりもおなかが大きくなるとは聞いていたNさんですが、妊娠7ヶ月くらいから腹囲が1メートルくらいあったそうです。
「羊水過多のせいか、逆子だったので帝王切開の予定で入院しました。ところが、手術当日に逆子が元に戻ったので退院したんです。でも、予定日が過ぎても陣痛が来なくて、結局10日過ぎに薬とバルーンで陣痛をおこし、経膣分娩で出産。3868gとかなり大きい赤ちゃんでした」
赤ちゃんの顔を見るまでは不安でいっぱいだったというNさん。今は元気いっぱい順調に育っている子どもの顔を見ては、笑顔になる日々だそうです。
羊水量は超音波検査で推定。
過多の基準値に根拠はない!?
「羊水量が基準より多いのが、“羊水過多”。これは単に多いという状態を指しているだけです。それによって、さまざまな症状が出てくると、“羊水過多症”になるのです」と、国立成育医療研究センター産科医長の久保隆彦先生。
羊水量は、お腹の上から経腹超音波検査で推定します。
羊水量は超音波検査で測定する
羊水ポケット(MVP)
羊水インデックス(AFI)
子宮を垂直に測った長さ(MVP/羊水ポケット)が8cm以上、もしくは羊水インデックス(AFI)といって、子宮を上下左右に四分割して、それぞれの腹壁から胎児までの距離を足した合計が、25cm以上の場合に“羊水過多”と診断されます。
「しかし、実はこの数字は経験的なもので、はっきりした根拠はありません。定義がないと診断できないので決めただけなのです。羊水の量を妊娠中に実際に測ることは可能ですが(色素希釈法)、たいへんで臨床的ではありません」
妊娠期間中はいつでも、同じ基準値なのでしょうか? 初期と後期では子宮の大きさも胎児の大きさも違うのに…?
「そう、同じなんです。でも、たとえば妊娠18週と32週で同じ数字が出たとすれば、妊娠18週のほうがより羊水過多、ということになります。また身長150cmの人と170cmの人が同じ数字だったら、150cmの人がほうが、羊水過多の症状が出やすいと言えます」
羊水過多の基準を満たし、起坐呼吸(きざこきゅう/呼吸困難が横に寝ると増強し、起きて座ると軽減する)など、母体に症状がでてきたときに、“羊水過多症”と診断されるのです。
「羊水が多い」と言われたら、必ずしも何か異常があると決まったわけではない。異常があるかもしれないから、必要なときには検査しましょう!という基準なのですね。
腹部緊満感、呼吸困難、頻尿……
羊水過多症は入院・安静が基本
羊水過多症になると、どんな症状が出てくるのでしょう? どんなリスクがあるのでしょう?
「子宮が急に大きくなるので、お腹がパンパンに張って苦しくなったり、横隔膜が圧迫されて深呼吸が苦しくなり、横になって眠れなくなったりします。膀胱も圧迫されるので、頻尿にもなります。また子宮内の圧力が高くなるので卵膜が破れて、破水しやすくなります。そうなると早産にもつながります」
また、羊水が多いと胎児の胎勢も安定しないので、逆子なることも多いといいます。子宮が伸びきっていたために、産後の子宮収縮も弱くなりがちで、弛緩出血も増えるそうです。
「羊水過多症と診断されたら、入院して安静を保つのが基本です。さまざまな検査をして原因を探ります」
胎児の尿が多すぎる?胎児の飲みが少ない?
羊水は、最初は胎児を包む卵膜や、胎児の皮膚からしみ出してきたもので作られていました。それが、妊娠20週を過ぎたころから、胎児のおしっこがメインになります。胎児は、その羊水を飲んでは、体内に吸収していきます。肺にも取り込んで、肺呼吸の準備もしています。そして腎臓でおしっことなり、排出する。これを繰り返しているのです。
ですから、羊水量が多過ぎるということは、おしっことして出す量が多過ぎる、または羊水を飲む量が少な過ぎる可能性がある。それらの過程のどこかに、なんらかのトラブルがあるかもしれない、と考えられるのです。
「胎児のおしっこ量が増える原因のひとつに、お母さんの糖尿病があります。お母さんが糖尿病だと胎児も高血糖になりやすく、胎児の尿量が増えるのです。また胎児の飲む量が少ないというときは、食道が閉じていたり狭かったりすることも考えられます」
羊水過多の母体側の原因には、妊娠糖尿病、糖尿病合併妊娠などがあります。
胎児の羊水の飲みが悪い場合は、消化管閉鎖、神経筋疾患、中枢神経奇形、胎児水腫、染色体異常…など。
胎児の尿が多過ぎる場合には、双胎間輸血症候群、無心体双胎、胎盤血管腫、胎児Bartter症候群…など。
難しい病名が並んでいます。赤ちゃんに深刻な病気も数多くあります。
「原因がわかれば、たとえば妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠などは、食事の管理やインスリンなどで治療することができます。赤ちゃんが生まれてから治療できるものもあります。ですから、できるだけ原因を突き止めて対処したいのです」
原因不明が6割。増え過ぎた羊水を抜いて早産を予防
とはいえ、検査をしても原因が見つからないこともあるといいます。むしろそのほうが多く、約6割は原因不明だそうです。
しかし、原因がわからなくても、増え過ぎた羊水が母体の呼吸困難などを招いているときは、羊水を抜きながら妊娠を継続させて胎児の成長を待ちます。おなかに直接注射針を刺して、そこからゆっくりゆっくり羊水を抜き取ります。
「これまでの私の経験では、妊娠27、28週から10週間ほどの間に、合計23回抜いたことがあります。1週間に2回ずつ、1回1000~2000CC抜きました。これほど羊水が増え過ぎていたのに、赤ちゃんにも胎盤にも何も異常がありませんでした。まれにこんなこともあるのです」
まだまだ解明できていないことも多いけれど、いろいろ対処法があるのは、現代のお産のありがたさ。羊水過多症には予防法もありませんが、妊婦健診で異常を早く見つけることはできます。健診の大切さを改めて感じます。
- *羊水過多症体験談は、『ベビータウン』アンケートにご協力いただいた方の体験です。ほかにもたくさんの方々にご協力いただきました。ありがとうございました。
取材協力・監修/久保隆彦先生
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