妊娠初期の出血

妊娠を知って喜びもつかの間、出血があると、「赤ちゃんは元気?」「自分の体調にトラブル発生!?」といった不安がつきまとうものです。妊娠初期の子宮は胎盤をつくる途中なので、とてもナイーブ。ちょっとした刺激で出血しやすい傾向があります。妊娠中のトラブルに詳しい田中ウィメンズクリニックの田中康弘院長に、心配のない出血や病気を伴う出血の原因や対処法などについて話を聞きました。
監修者プロフィール
田中康弘院長
田中ウィメンズクリニック
慶應義塾大学医学部卒。1973年、産婦人科麻酔科「田中ウィメンズクリニック」を開設。田中ウィメンズクリニックは、硬膜外麻酔による無痛分娩を国内で最初(1973年1月)に始めた無痛分娩の草分け。
妊娠初期の出血の特徴
妊娠初期とは、妊娠2~4ヶ月までのこと。この時期に見られる出血は、約30%の妊婦さんが経験すると言われています。あまり珍しいことではありませんが、妊娠したばかりの時期に見られると不安になりますね。
出血といっても、おりものがピンク色になる程度の微量なものから、ナプキンやショーツから漏れ出てしまうほどの大量のもの、いつまでもダラダラと出て止まらないものなど、原因によって大きく違います。
ほとんど大事には至りませんが、まれに重大な病気を伴う出血があるので、「よくあることだから」と放置せず、病院に出血があったことを報告し、どのように対処するか指示を仰ぐことが重要です。
妊娠初期に出血する原因とは?
妊娠初期に見られる出血の原因は、いくつかあります。
・着床出血
量:少量
色:赤~茶
着床すると、赤ちゃん側の細胞である絨毛が子宮内膜の細い血管を破って入り込み、胎盤がつくられます。着床出血は子宮内膜の血管が傷つけられることで起こり、決して珍しいことではありません。
着床出血の起こるタイミングは受精卵が子宮内膜に着床したころなので、月経開始予定日の1週間前ごろから開始予定日にかけて。ママはまだ妊娠に気づいていない時期ですね。すべての人に見られる症状ではないうえ、出血があっても2~3日程度で止まります。
・子宮頸管ポリープ
量:少量もしくはおりものに混じる程度
色:赤~茶
ポリープとは、粘膜から発育したイボのこと。子宮頚管の粘膜組織が増殖し、キノコ状のイボとなって腟内に向かって垂れ下がっているのが子宮頚管ポリープです。多くは、卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響でできると言われています。組織がやわらかく充血しやすいため、セックスや排便時のいきみなどの刺激でも出血します。
・子宮腟部びらん
量:少量もしくはおりものに混じる程度
色:赤~茶
「びらん」とは、ただれている状態。子宮腟部びらんは、子宮の入口付近である子宮腟部が赤くただれているように見えたり、本当にただれたりしている状態です。ほとんどは女性ホルモンが活発な時期に多く見られる生理的な現象で、病気ではありません。細菌や刺激への抵抗力が弱いため、炎症を起こすと出血が見られることがあります。炎症がおさまると、出血も止まります。
・絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)
量:少量~大量
色:赤~茶
受精卵が子宮内膜に着床したとき子宮内膜の血管が傷つけられ、子宮を包む絨毛膜と子宮内膜の間で出血することがあります。その際にできた血の塊が絨毛膜下血腫で、超音波検査で確認できます。妊娠初期に見られる出血のほとんどを占めると考えられています。
少量の出血なら子宮に吸収されますが、量が多いと腟の外にまで漏れ出てくることが。しかし、大量の出血でも4~7日ほどで止まります。絨毛膜下血腫に治療法はありませんが、感染さえ起こさなければ悪影響はありません。
・異所性妊娠(いしょせいにんしん)
量:少量~大量
色:赤
受精卵が、子宮内膜以外の卵管、卵膜、腹膜などに着床することです。少量の赤い出血が続き、徐々に出血量が増えて腹痛を伴うようになります。妊娠検査薬で妊娠陽性の判定は出ますが、超音波検査で子宮の中に赤ちゃんがいないことから異所性妊娠が判明します。そのため、「妊娠検査薬で陽性だったから、正常に妊娠している」と自己判断してはいけません。
受診しないで放置していると、大きくなる胎嚢(たいのう)が着床した部分を突き破り、大出血を起こして母子ともに危険な状態になる、リスクの高い異常妊娠です。早期発見のためには、妊娠検査薬で陽性が出たあと、なるべく早い時期に病院を受診することが重要です。胎児が成長できる環境ではないので、妊娠の継続はあきらめるしかありません。手術、薬物療法などで治療します。
・胞状奇胎(ほうじょうきたい)
量:少量もしくはおりものに混じる程度
色:褐色~赤
胎盤になるはずの絨毛という組織が、異常に増殖した状態です。放置すると、まれに絨毛がんとなることがあります。子宮内はブドウの粒のような絨毛でいっぱいになり、胎児はその中に吸収されてしまいます。超音波検査で診断されますが、自覚症状として、断続的な出血や褐色のおりものがあったり、つわりがひどかったりします。手術で子宮内の絨毛を取り除く処置をする必要があり、妊娠の継続はできません。
・切迫流産
量:少量~大量
色:赤
「流産しそうだけれど、かろうじてママのおなかにとどまっている」といった、流産しかかっている状態です。少量の出血が断続的に見られるのが特徴。大量の出血や下腹部痛を伴うと流産のリスクが高くなります。すべてが流産につながるわけではなく、超音波検査で胎児の心拍が確認されれば、よほど出血量が多くない限り、いずれ出血は止まり妊娠を継続できます。特別な治療法はなく、出血がある間は安静にすることが第一です。
・早期流産
量:少量~大量
色:赤
流産は妊娠22週未満に妊娠が終わってしまうことで、全妊娠の10~15%に起こります。中でも妊娠12週未満に起こる流産を早期流産と言います。
少量の出血に下腹部痛を伴うといった症状が出て、病院で診察を受けると胎児の心拍が確認できないというケースが多く見られます。また、鮮血や血の塊が出て、激しいおなかの痛みに襲われ子宮収縮が始まることも。子宮収縮によっておなかの内容物が押し出され、流産してしまいます。
妊娠12週までに起こる流産のほとんどは、胎児の染色体異常が原因です。受精した段階で流産の可能性が高く、防ぐことはできません。「最近では高齢妊婦さんが増えていますが、高齢だと流産率が若干高くなります。卵子の老化が影響しており、流産するのは仕方ない側面があります」(田中先生)。
ときどき、「すぐに仕事を辞めないで無理をしたから」「重いものを持ったから」などと自分を責めるママがいますが、「お母さんのせいではないので、前を向いて次の妊娠を目指してくださいね」と田中先生は優しく話します。
出血したとき、まずはどうする?
出血したときあわてないために、いざというときの手順を頭に入れておきましょう。
病院に電話連絡して、「出血しました」と伝える
病院に伝えるときのポイントは、次のことを参考にしてください。
- いつから出血しているか→「昨夜の深夜から」「2時間前から」など
- 出血の色、量、におい→「真っ赤で大量」「茶色くて少量」「ピンクのおりもの程度で、すっぱいにおいがする」など
- おなかに痛みや張りがあるか→「おなかの張りが不規則にある」「3時間前からチクチクした痛みが規則的にある」「2時間前から定期的な痛みがあり、徐々に強くなっている」など
- 37.5℃以上の発熱があるか→「38℃の熱が昨晩から続いている」「昨晩は37.5℃の熱があったが、今は37℃に下がっている」など
- その他に不調があるか→「吐き気がある」「嘔吐が止まらない」「大量の出血とともに固形物が出た」など
病院への移動は車かタクシーで
病院を受診するように指示があれば、ナプキンを当てましょう。車かタクシーを手配し、なるべく横になって安静な姿勢で移動します。痛みがなくても、電車やバスは時間がかかるので避けます。妊娠がわかった時点で、タクシー会社の連絡先を携帯電話に登録しておくと安心です。
妊娠初期で比較的安心できる出血
上記に紹介した原因の中で、比較的安心できるのは、
着床出血
子宮頸管ポリープ
子宮腟部びらん
です。
しかし、妊娠初期の出血では自己判断してはいけません。必ず病院へ連絡して医師の指示を仰ぎましょう。安心できる出血と判断されたら、「自宅で様子を見てください」と言われることが多いです。
鮮血だと注意? 妊娠初期で気をつけたい出血
黒っぽい血や薄茶色の血は、過去の出血が出てきていると考えられます。鮮血は、まさに今の時点で出血している可能性があり、リスクが高いとされています。
妊娠初期の出血が鮮血になる原因は、切迫流産、流産、異所性妊娠、胞状奇胎、子宮頸管ポリープ、子宮腟部びらんなどがありますが、中でも心配なのが切迫流産や流産です。「生理の多い日くらいの大量の鮮血が出た」「血のかたまりが出た」といった場合は、診療時間外でもすぐに病院へ電話して急いで診てもらいましょう。また、異所性妊娠と胞状奇胎も医師が診察しなければ分からないので、早めに受診を。
妊娠初期の出血はあわてずに、他の症状もチェック
妊娠初期に出血すると多くの妊婦さんが不安になりますが、いったん冷静になり、出血以外の症状がないか確認することが大切です。
特に、次の2つのポイントが重要。
- おなかに痛みや張りがあるか
- 37.5℃以上の発熱があるか
おなかに痛みがあれば、異所性妊娠や流産の可能性があります。発熱があると、感染症にかかっているかもしれません。すぐに受診する必要があるので、病院へ早めに連絡してください。
妊娠初期の出血はあわてずに、他の症状もチェック
「妊娠初期の妊婦さんの多くは、出血すると『流産では?』と心配して連絡をしてきます。しかし、たいていは心配のないことが多いもの。過剰に不安に思うことはありませんが、“心配のない出血”であることを確認することが一番重要です。出血があったら、まずはあわてず冷静に自分の体を観察してから、速やかに病院へ連絡してくだい。ときどき、『何度も電話して気が引ける』『時間外なのに、迷惑なのでは?』と、遠慮して連絡を躊躇してしまう妊婦さんがいますが、そんな心配はいりません」と、田中先生は妊婦さんの不安に寄り添います。
妊娠初期の出血は、なんらかの体からのサインです。不安なときは医師に相談し、出産するその日まで穏やかな気持ちでマタニティライフを過ごしてくださいね。
監修/田中ウィメンズクリニック院長 田中康弘先生
update : 2018.06.19
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