抜け毛、お肌、子宮の回復…気を付けたい!産後のボディケア
妊娠・出産を境にママのカラダにはいろいろな変化が訪れます。
産後、時間がたてば元に戻ることも多いけれどいつ戻るのか、本当に戻るのか不安なこともありますね。
気になる産後のボディケアについて専門家の先生にお話をうかがいました!
お話くださった方
大久保病院副院長(産婦人科医)
大鷹美子先生
東京大学医学部保健学科及び医学科卒業。
東京大学医学部附属病院産婦人科学教室入局、周産期学の研究に従事。
日赤医療センター、NTT東日本関東病院を経て、現職。
著書に『どうしたの?産後ママのからだ相談室』(赤ちゃんとママ社)がある。
産後はカラダに変化があって当然!
妊娠中はおなかに赤ちゃんがいて、ママのカラダに変化が起きるのも理解できるのですが、出産した後に妊娠前のような体調にはなかなか戻らずに戸惑うことが多いです。仕方のないことなのでしょうか?
大鷹先生
あれだけ大きな赤ちゃんを産むのですから、何ごとも起こらないはずはないですよ(笑)。子どもが産まれて「母になる」というのは、社会的な意味だけでなく肉体的にも変化があって当然なんです。
そうですね…。でも育児が忙しくなると自分の体調のことにかまう暇もなくなってしまうことがあって、気づいたら抜け毛がひどかったり、なんとなくだるさが続いていたりして、「どうしたらいいんだろう?」とある日悩むママも少なくありません。
大鷹先生
妊娠前と妊娠中、出産後では体型だけでなくホルモンバランスが大きく変わります。それによってさまざまな変化が起きて、授乳中は妊娠前のようには戻らないこともあります。個人差や症状にもよりますが、管理しようと思って解決することではないので、いつかは戻ると大らかにかまえるのが一番よいのですが、そう思えないと辛いかもしれませんね。科学的に原因がわかることはお答えしますので、それで少しでも心の負担が減るといいですね。
何が原因?産後のカラダの変化
抜け毛について
ではママたちの悩みがちなカラダの変化についてひとつひとつうかがっていきます。まず、女性として気になるのが産後の抜け毛。これはどうして起きるのですか?
大鷹先生
産後に抜け毛が増えるのは実際によくあることですが、実は綿密に研究されて因果関係が実証されているわけではないのです。ただ、妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが大量に分泌されます。エストロゲンは発毛に影響があるとされているホルモンなので、本来妊娠中は、妊娠前よりも抜け毛が減っているはずなのです。
これらのホルモンは胎盤に蓄積されていて、出産とともに一気に体外に出てしまうので、産後のカラダからはエストロゲンの濃度が急激に減るということ。これが抜け毛の原因と考えられています。妊娠中は抜け毛が少ないので、落差も大きく感じるのかもしれませんね。
抜け毛はいつかはおさまりますか?
大鷹先生
生後2~3ヶ月から半年くらいがピークで、1年くらいたつと元に戻り始めます。ただし授乳中など排卵がない状態のときには、エストロゲンの分泌が抑えられるので、個人差はあります。月経が回復するとホルモンも妊娠前の状態に戻りますよ。
1年たって授乳もしてなくても抜け毛がつづく場合はどうしたらよいのでしょう?
大鷹先生
その場合は、抜け毛の原因が出産以外にあるかもしれません。産後は自己免疫疾患(甲状腺障害)などが出やすい時期で、その場合皮膚疾患として現れる場合がありますから、続くようなら医師の診断を受けた方がいいですね。
肌の変化について
妊娠中にシミができやすくなる人も多いですが、産後も消えない場合があります。
大鷹先生
妊娠中はホルモンバランスや免疫の影響で、皮膚疾患が多くなることがります。妊娠中にシミができやすくなるのもそのためですが、普通は産後に薄くなってきます。けれど、妊娠中は肌が敏感になったり、産後は赤ちゃんへの影響を気にして、薄化粧になることが多くなり、紫外線ケアに手が回らないためにシミが悪化することもあります。外出する際は帽子やUVケアクリームを使うなど、紫外線対策をしておきましょう。
それでも消えず、気になる場合は皮膚科の診察を受けることをおすすめします。
妊娠線が消えないことも悩みのタネですね。
大鷹先生
これは産後のケアというより妊娠中が大事で、腹囲が90cmを超えると妊娠線ができやすくなると言われています。妊娠中の体重管理が重要ですが、気にしすぎてやせすぎの妊婦さんも最近増えていますし、腹囲のコントロールはなかなかできませんから、産後になるべく早く体重を戻すことですね。
子宮や骨盤などカラダの中の変化について
人にはなかなか言いにくいですが、産後は尿モレが起きたりすることもありますが、治るのでしょうか?
大鷹先生
産後の尿モレ防止には骨盤底筋体操などをきっちりやるといいようです。尿モレだけでなく、近年は高齢出産の方が増えているため、昔は5~6人の子どもを出産した産婦さんに見られた症状が、1人目の出産で起きることがよくありますね。
たとえばどんなことですか?
大鷹先生
子宮下垂や子宮脱などです。痛みなどはあまりなく、自覚症状としてはなんとなく下腹部に不快感がある程度なので、そのままにしておく人も大勢います。
子宮下垂や子宮脱になると、他によくないことが起きるのですか?
大鷹先生
生死には関わりませんし、次の妊娠にも問題はありません。今のところ、単に子宮が膣まで出てきてしまう、ということです。近年のように出産年齢が上がった歴史がないため、こうした方々がもっと高齢になったときに何が起きるかは、実はまだわかっていないのです。
子宮下垂などを防ぐには、産褥体操を真面目に長期間きちんとやったり、産後すぐに重いものを持ったり無理な運動をしないこと、特に働くお母さんは無理をしすぎないことですね。
高齢出産にはリスクがともなうということでしょうか?
大鷹先生
医療が進歩していますから、40代でもたくさん元気に赤ちゃんを産んでいる方も大勢います。出産に適したカラダというのは20代前半がピークで、その後は陣痛促進剤を使ったり、帝王切開になるなど難産の確率が増えるのは事実です。けれど過剰に心配する必要はなく、その年齢で妊娠した場合に何に気をつけなければいけないか、担当医の先生の指示に従って妊娠中や産後の生活を営んでいれば大丈夫ですよ。
気をつけてほしいことに目がいっていない!?
抜け毛やシミ、尿モレなど、産後の目に見える変化はママたちの関心事になりやすいのですが、産婦人科医のお立場として、産後にママたちに本当に気にしてほしいことにはどんなことがありますか?
大鷹先生
医師としては生死に関わったり、重大な病気に結びつくことに気をつけてもらいたいのですが、実はそちらになかなか意識がいかないのが残念です。産後は1ヶ月健診で赤ちゃんと一緒にママの体調を診てもらう機会がありますが、その後の定期健診は赤ちゃんだけですね。実はママにも気にしてほしいことがあります。それをチェックリストにまとめましたので、是非活用して、該当することがあったら、専門医の診断を受けてみてください。
抜け毛よりも心配なことは実はいろいろあるんですね…。
ありがとうございました!
いかがでしたか?
抜け毛やシミも、女性としては気になることですが、カラダの中の変化は気づかぬうちに進行しているもの。初めての育児で産後すぐは意識がいかなかった人も、1ヶ月健診が終わった頃から、自分のカラダのチェックもはじめてくださいね!チェックリストを是非利用してください!
産後のボディケアチェックリスト
設問 | 回答ごとの結果はこちら | 解説 | |
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1 | 妊娠前の子宮ガン検診(細胞診)の結果は? | Ⅰ・Ⅱの方は・・・ 正常範囲なので心配ありません。 |
近年、ヒトパピローマウィルスという、性交渉により感染するウィルスが原因で、子宮頸ガンにかかる人が増えています。他のガンが比較的中高年以降に多いことに対し、若い人に多い病気のため注意が必要です。 |
Ⅲの方は・・・ ガン予備軍の恐れがあります。早めに産婦人科で経過観察のための診断を受けましょう。 |
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Ⅳ・Ⅴの方は・・・ 既に治療などを受けていると思います。引き続き医師の診断に従って治療を続けましょう。 |
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2 | 妊娠中、妊娠高血圧症候群と診断された | YESの方は・・・ 産後しばらくして血圧が高いようであれば、循環器内科の医師の診断を受けましょう。 |
妊娠高血圧症候群はもともと血圧の高い人や、高血圧の家系の人に多いため、産後に一旦血圧が下がってもまた上がる可能性があります。高血圧は他の病気を引き起こす原因となりますので、引き続きケアが必要です。また、太らないように食生活や運動なども留意しましょう。 |
3 | 妊娠糖尿病になった | YESの方は・・・ 産後しばらくして血糖値が上がっているようであれば、内分泌・代謝内科の医師の診断を受けましょう。 |
妊娠糖尿病はもともと血糖値が上がりやすい人がなりやすい病気で、妊娠中のホルモンバランスの変化でインシュリンのパワーが落ちて血糖値が上がることで起きます。産後に一旦血糖値が下がっても、5~10年後に糖尿病になりやすいため、産後も引き続きケアが必要です。 |
4 | 産後、なんとなく疲れてだるい症状が続く | YESの方は・・・ 育児疲れの可能性もありますが、睡眠や休息を取っても治らない場合は、自己免疫疾患の可能性もありますので、内分泌内科の診断を受けましょう。 |
産後は自己免疫疾患や甲状腺疾患の出やすい時期で、これらの症状としてからだのだるさを感じる場合があります。疲れやだるさを取り除くことをしても変化がない場合は、医師の診察を受けましょう。 |
5 | 抜け毛が気になる | 産後1年未満のママは・・・ 産後は女性ホルモンの低下で抜け毛は誰にでもあることなので、産後1年ごろまでしばらく様子を見ましょう。 |
産後は自己免疫疾患や甲状腺疾患の出やすい時期で、これらの症状として抜け毛が発生する場合があります。産後1年以上たっても抜け毛が続くようであれば、医師の診察を受けましょう。 |
産後1年以上経過したママは・・・ 自己免疫疾患の可能性もありますので、内分泌内科の診断を受けましょう。 |
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6 | 産後わけもなく気分が落ち込んだり、気力がうせたり、眠れないことがある | YESの方は・・・ 一般的なマタニティーブルーにしては明らかに症状が重いと、自分自身やまわりの人が感じたら、精神科の診断を受けてみましょう。 |
産後うつ病は近年増えています。育児環境の変化でまわりに頼る人が少ないなどの原因も考えられますが、精神科のハードルが高いと感じてなかなか診察に行きにくいと感じてしまうことがあるようです。けれど育児中に放っておくと、赤ちゃんのお世話にも影響しますし、産後うつは珍しいケースではないので、専門医の診察を受けるとよいでしょう。 |
7 | 乳がん検診を定期的に受けている | YESの方は・・・ 今後も年に1度は検診を受けてください。 |
日本人女性の11人に1人が乳がんにかかっています。健康でも定期的に検診するのはもちろんですが、産後は乳腺炎と間違いやすく発見しにくいことがあります。乳房にしこりがあった場合、乳腺外科の診察を受け、乳腺炎でなかった場合は乳がんの恐れもあるので、なるべく早く医師の診察を受けましょう。 |
NOの方は・・・ 年に1度は乳がん検診を受けてください。授乳中でもできる検査方法はあります。 |
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8 | 産後、肩や腰、膝などの関節に痛みを感じる | YESの方は・・・ 骨密度が下がっている可能性があるので、整形外科の診察を受けましょう。 |
人間の骨は肉と同様、代謝して常に入れ替わっています。もともとカルシウムが不足しがちな人は、出産や授乳でカルシウムを赤ちゃんに取られているため骨量が減り、そのために関節痛が起きている可能性があります。放っておくと骨粗鬆症になる恐れがあるので、整形外科で骨量を測定してもらいましょう。 |
※監修:大久保病院副院長(産婦人科医) 大鷹先生
update : 2020.01.15
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