産後2週間と産後1ヶ月に、ママの心の健康チェックを!
赤ちゃんは無事に生まれてきてくれるかな…。おっぱいは出るかな…。沐浴うまくいくかな…。産後の生活に思いを馳せていくと、楽しみの中に、不安や心配も募ります。実際、「産後3ヶ月まで心のトラブルのリスクが高く、産後2週間がピーク」という調査結果が出てきました。ストレスや心の疲れは、自分ではなかなか気づきにくいもの。つい、がんばりすぎてしまうあなたへ――産婦人科医・久保隆彦先生の提言です。
監修者プロフィール
久保隆彦先生
シロタ産婦人科名誉院長、医学博士。
岡山大学医学部卒業後、聖隷浜松病院NICU、高知医科大学助教授、国立大蔵病院産科医長、国立成育医療センター産科医長を経て現職。専門は、周産期医学、胎児・新生児学、妊産褥婦のメンタルヘルス。作成したガイドラインは、「産科危機的出血の対応ガイドライン」、「産科危機的出血への対応指針2017」、「産科危機的出血に対するIVR施行医のためのガイドライン2012」、「産科危機的出血に対するIVR施行医のためのガイドライン2017」、「早期母子接触の留意点」、「CRS診療マニュアル」。評価したガイドラインは、「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」、「産婦人科診療ガイドライン産科編2011」。
支援者・制度不足が心のトラブルに拍車
妊娠で急増した女性ホルモンが、分娩で急降下。ホルモンバランスが一気にくずれて、産後は心のバランスが乱れがちです。お産で使い果たした体力もまだ元には戻っていないし、慣れない育児の疲れもたまってきて、産後は心のトラブルのリスクが高くなるのです。
「核家族化が進み、女性の社会進出も加速しているのに、支援してくれる人や制度は、十分に整備されていません。こうした状況が、産後うつや虐待など、妊産婦のメンタルヘルスの障害に拍車をかけているのです」という久保隆彦先生。
現在、世帯の約8割は「核家族」。日常的に育児をサポートしてくれる祖父母もいないし、地域とのつながりも薄い…。母親は気軽に相談できる相手もなく、孤独になりがちです。
いまだ男性中心の社会で、妊娠や出産、育休取得などで、会社・上司・同僚からいじめや嫌がらせ(ハラスメント)を受けて精神的に追い詰められることもあります。虐待歴や、精神疾患の合併も増加しており、複合的にからみあって、心の健康に問題が出てくることもあります。
最近、増えている妊産褥婦の自殺や、実母による乳幼児への虐待も、こうした心の健康(メンタルヘルス)のトラブルと関係していると考えられています。
メンタルヘルスに着目した調査でわかったこと
久保先生は、厚生労働省の研究班を立ち上げ、妊婦のメンタルヘルスに着目した大規模な研究調査を行いました。対象となったのは約1700名の妊産褥婦さんです。
その結果、妊産褥婦のメンタルヘルスに関して、次のようなことがわかったのです。
- 高いリスクを持つ割合は、10人に1人
- 産後2週間でリスクはピークになる
- 産後1ヶ月でも高い割合でリスクを抱えている
- 初産婦のほうが経産婦よりトラブルを抱えやすい(産後2週間では4人に1人)
- 妊娠中からリスクを知り、見守る必要がある
産後2週間は、出産という大仕事を終えた疲れが残っているうえ、上げ膳据え膳の分娩施設から退院し、慣れない育児による疲れもたまり、心のトラブルのリスクはピークに達します。産後1ヶ月のころもまだまだリスクは高いまま。また、産後だけでなく、妊娠中からリスクの高い人がいることもわかりました。
妊産婦のメンタルヘルスのトラブルに関わってくる大きな要素が、次の3つであることもわかったのです。
- 妊娠前からの精神的不安定状態
- 妊娠・育児を支援する体制不足
- 身体症状と母乳育児トラブル
こうした研究結果から、妊娠中、そして産後の早い段階から、メンタルヘルスに注目したケアが必要であることを、国に提言。産後2週間健診が一部の自治体でスタートしたのです。
心のリスクを知って、自らアクションを起こそう!
しかし、メンタルヘルスへの取り組みが全国的に広がっていくまでには、まだまだ時間がかかりそうです。そこで、
「かわいい赤ちゃんと自分を守るため、自らアクションを起こしてほしい。自分の心の状態を自分で知って、積極的に相談したり、サポートを求めるなどの行動を起こしてほしいのです」と久保先生。
久保先生は、「妊娠初期」「産後2週間」「産後1ヶ月」それぞれの時期に、心の健康をチェックできるアンケートシートを作成しました。これは、医師や助産師、保健婦など医療に携わる人が、妊産婦のメンタルヘルスを診断するための手掛かりとなるものです。そしてこれは同時に、妊産婦自身が、自分と赤ちゃんを守るためにも使える、画期的なもの。
だれもが心の健康のリスクを抱えている現代。いつもがんばりすぎて、無理しがちなあなた。ぜひ、このアンケートを使って、自分の心の健康リスクをチェックしてみましょう。どんなことが心の負担になっているのか、自分でも意識しなかった要因を知るきっかけにもなります。つらい状況を打開する方法を見つける助けにもなるかもしれません。
産後は、赤ちゃんのお世話でてんやわんや。アンケートをやるのを忘れないように、「産後2週間と1ヶ月のアンケートをやる!」とメモして、冷蔵庫や手帳に貼っておきましょう。
産後2週間アンケートをやってみよう!
産後2週間たったら、チェックしてみましょう。点数化して判断する指標ではないので、( )内に1個でも○がつく項目があったら、主治医や助産師に、アンケートを見せて相談しましょう。また、このアンケートは多胎以外を対象としています。多胎の場合は多くのサポートが必要ですので、主治医や助産師に相談してください。
産後2週間健診時アンケート
記入日 年 月 日
名前
日中連絡のとれる電話番号
出産日は( 年 月 日)退院して 日目
分娩は(経腟分娩・吸引か鉗子分娩・帝王切開)誘発・促進分娩(無・有)
現在住んでいる場所(実家・夫の実家・自宅・その他 )
赤ちゃんは順調に育っていますか。もし赤ちゃんのことで心配なことがあれば、書いてください。
お産のあとから今日までに以下の項目に該当する方は○印をつけてください。
( )お産には満足できなかった
( )赤ちゃんはまだ入院している、あるいは問題があると言われている
( )夫(パートナー)が精神的に支えてくれない
( )孤独で友達がいないと感じている
( )子どもを産んでからやりたいことがほとんどできていない
( )過去に精神疾患で受診したことがある
( )はっきりとした理由もないのに恐怖に襲われた
( )日常生活のなかに興味あることがなかった
( )悲しくなったり、惨めになったりした
( )明るく楽しい気分で過ごしてなかった
( )物事をうまく扱えないと感じることが多い
( )赤ちゃんを身近に感じない
( )小さなことでも子どもに腹を立てやすい
( )母乳の出が悪い
( )胸のしこり、乳腺炎がある
( )会陰部の痛みがある
( )腕・手首の痛みがある
( )尿もれがある
その他、心配なこと、相談したいことがあればなんでも書きましょう。
シロタ産婦人科 久保隆彦(久保班結果より作成)
産後1ヶ月アンケートをやってみよう!
産後1ヶ月たったら、チェックしてみましょう。点数化して判断する指標ではないので、( )内に1個でも○がつく項目があったら、主治医や助産師に、アンケートを見せて相談しましょう。また、このアンケートは多胎以外を対象としています。多胎の場合は多くのサポートが必要ですので、主治医や助産師に相談してください。
産後2週間健診時アンケート
記入日 年 月 日
名前
日中連絡のとれる電話番号
出産日は( 年 月 日)退院して 日目
現在住んでいる場所(実家・夫の実家・自宅・その他 )
赤ちゃんは順調に育っていますか。もし赤ちゃんのことで心配なことがあれば、書いてください。
お産のあとから今日までに以下の項目に該当する場合はいくつでも○印をつけてください。
< >明るく、楽しい気分で過ごした
< >落ち着いた、リラックスした気分で過ごした
< >意欲的で、活動的に過ごした
< >ぐっすりと休め、気持ちよく目覚めた
< >日常生活のなかに興味のあることがたくさんあった
( )お産には満足できなかった
( )赤ちゃんはまだ入院している、あるいは問題があると言われている
( )夫(パートナー)が精神的に支えてくれない
( )孤独で友達がいないと感じている
( )子どもを産んでからやりたいことがほとんどできていない
( )過去、あるいは現在、精神疾患で受診したことがある
( )はっきりとした理由もないのに恐怖に襲われた
( )物事をうまく扱えないと感じることが多い
( )赤ちゃんを身近に感じない
( )小さなことでも子どもに腹を立てやすい
( )母乳を希望しているのに出が悪いことを心配している
( )胸のしこり、乳腺炎がある
( )会陰部、あるいは帝王切開創部の痛みがまだある
( )赤ちゃんを抱っこする時に、腕・手首に痛みがある
( )尿もれがある
その他、心配なこと、相談したいことがあればなんでもお書きください。
シロタ産婦人科 久保隆彦(久保班結果より作成)
アンケートの活用方法
いかがでしたか? アンケートにチェックが入りましたか? 1つでも思いあたることがあったら、積極的にサポートを求めていきましょう。
「自分の精神的なトラブルのリスクを自分で知って、ぜひ、うつやイライラ、虐待の予防を心がけてください。つらい状況を早期に発見して、解決策をみつけるきっかけにしてください」(久保先生)
「夫(パートナー)が精神的に支えてくれない」にチェックが入ったときは、夫やパートナーとよく話し合ってみる、母親に手伝いをお願いするなど、できる手をうっていきましょう。「母乳の出が悪い」「尿もれがある」というときは、医師や助産師に相談してください。
自治体の『妊娠・育児を支援する制度』も今から調べて、産後すぐに頼めるように準備しておきましょう。
リスクがあるからといって、弱い人間でもダメなママでもありません。自分の心のSOSに早く気づいて、必要なサポートを受ければいいのです。
たくさんの人に心をかけてもらい、手をかけてもらえば、そこに温かい人間関係が生まれ、豊かな環境が生まれます。自分と赤ちゃんのため、一人でがんばってはいけません。できるだけ多くのサポートを求めて、育児していきましょう。
「育児の三原則」で、落とし穴に陥らない!
「産後の落とし穴、ピットフォールに陥らないように、いつも妊産褥婦さんに言っていることがあります。次の“育児の三原則”を、ぜひ心がけてください」(久保先生)
- 頑張らないこと
頑張ることが美徳だと勘違いしているようです。頑張って体力を消耗することは避けなければいけません。たとえば、赤ちゃんが寝れば一緒に寝て、起きればお母さんも起きればよいのです。
- 楽しむこと
責任感から義務感にとらわれがちですが、赤ちゃんの笑顔あるいは、手を握ってくれることなどに楽しみを見つけることが大切です。
- 夫・パートナー、実母、姑に押し付けること
育児中赤ちゃん以外のことでしなければいけないことがあります。その時は、遠慮せず押し付けましょう。押し付けることで印象が悪くなることを心配する必要はありません。あなたと赤ちゃんが順調に経過することが家族にとっても一番大切なのです。
update : 2018.02.13
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