胎盤とは? 位置や重さは?
赤ちゃんが元気に育つために、重要な役割を果たす胎盤。おなかの中で赤ちゃんが酸素や栄養を受け取ることができるのは、この胎盤のおかげです。赤ちゃんの健康のため、そして無事出産を迎えるために必要な胎盤とは? 産婦人科医・小川博康先生に聞きました。
監修者プロフィール
小川博康先生
小川クリニック院長
日本医科大学卒。同大学産婦人科学教室、私学共済下谷病院、恩賜財団母子愛育会愛育病院、横浜赤十字病院副部長などを経て、現職。子宮内胎児交換輸血、一絨毛膜双胎一児死亡例の選択的胎内手術など、世界で一例しか成功していない症例の主治医。優しくも、ときに厳しく本音で語るドクターとして信頼は厚い。主な著書に、『安産をめざすママ&パパへ 妊娠・出産カレンダー』『「安全神話」の過信が招く妊娠・出産の“落とし穴”』(ともに幻冬舎)。監修の『増補改訂版 てるてる天使の妊娠出産百科ハッピーマタニティ』(学研プラス)は、大人気のロングセラー。
胎盤とは? 胎盤の役割とは?
胎盤は赤ちゃんを守る命綱
胎盤は、赤ちゃんが元気に育つために必要不可欠のもの。さまざまな役割を果たしています。
胎盤は、母体の子宮に貼り付いて成長する胎児の一部。胎盤から伸びたへその緒(臍帯)は胎児のおへそと繋がっています。胎盤の中には、血管の束が集まっています。この血液を通して酸素や栄養分、水分が胎児に送られています。胎児から排出された二酸化炭素や老廃物もまた、この胎盤へと送られて母体で処理されます。
胎盤は栄養補給と老廃物の受け渡し場所。胎児の肺であり、胃腸や腎臓であり、ホルモンや免疫機能も備えています。胎盤は、おなかの赤ちゃんにとって、生きていくためになくてはならない命綱なのです。
最新の研究によると、赤ちゃんの成長のために、たくさんのメッセージ物質がやりとりされている場所でもあることがわかってきました。
【胎盤の役割】
- 赤ちゃんへ酸素を送る
- 赤ちゃんへ栄養分を送る
- 赤ちゃんから二酸化炭素を受け取る
- 赤ちゃんから老廃物を受け取る
- メッセージ物質の交換 など
胎盤にはフィルターの役目も
胎盤ができる前までは、母体の血液中の物質は、そのまま胎児に移行しています。とくに妊娠初期、薬の服用などに注意しなければいけないのは、このためなのです。
しかし、胎盤ができると、分子量の大きいものは胎児に移行しないようになります。胎盤がフィルターの役目を果たして、有害なものは胎児に届かないようになるのです。
ただし、分子の小さなものは、胎盤ができたあとも移行してしまいます。妊娠中は全期通して、薬の服用はドクターの指導の下で行うこと。タバコに含まれるニコチンやアルコールも分子が小さいので、胎盤を通過します。妊娠がわかったら(妊娠を望むときから)赤ちゃんのために、禁煙しましょう。
胎盤の位置ってどこ?
これが胎盤だ!
この円盤状のかたまり、これが胎盤です。直径約20~30cm、厚さ2~3cm、重さ500~600g。
胎盤は、赤ちゃん誕生のあとに、もう一度軽い陣痛が起こって子宮からはがれ落ちてきます。役目が終わったからです。
元気で健康な赤ちゃんの胎盤は、張りがあり、厚みもあって、しっかりしています。反対に、発育不全の赤ちゃんの胎盤は、やはり発育不全。小さくて薄かったり、硬かったり、石灰化していたり、むくんでいることもあります。
正常な胎盤は子宮の上のほうにある
胎盤があるのは、子宮の中。子宮口から離れた子宮体部と呼ばれる子宮の上のほうにあるのが、正常な位置です。妊娠初期には、まだ子宮が小さいのではっきりしませんが、妊娠10週以降くらいから、超音波(エコー)検査で胎盤の基になる部分が見えてきます。
胎盤が子宮の低い位置にある「低置胎盤」や、胎盤が子宮口付近にある「前置胎盤」の場合は、早産やお産への影響が考えられるので、経過を注意深く観察していきます。
低置胎盤、前置胎盤の疑いは、出血に注意
妊娠中期に、前置胎盤や低置胎盤の疑いがあると言われた場合は、出血しやすいので注意が必要です。胎盤には血液が豊富にあり、それが子宮口の近くにあると、ふとしたきっかけで出血してしまうことがあるからです。
また、前置胎盤から早産になった場合、出血すると胎盤でつながった胎児が貧血になることもあります。
前置胎盤や低置胎盤の疑いがあると言われたら、できるだけ行動を控えて、無理をしないで過ごしてください。おなかの赤ちゃんの元気をキープするには、ママの心がけも大切です。
ただし、妊娠中期に前置胎盤や低置胎盤が疑われても、おなかが大きくなるにつれて徐々に胎盤が子宮の上部へと引っ張られて、正常な位置になっていくこともあります。最終的な判断は妊娠後期に行います。
胎盤ができるまで!
いつ完成するの? 重さはどれくらい?
受精卵が着床すると、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが分泌されます。それにより、着床した部分の子宮に絨毛(じゅうもう)ができ始め、子宮の一部が厚くなり始めます。
さらに厚くなった子宮の一部にだんだんくぼみができてきて、もっこりとした山が見えてきます。胎盤ができてきたのです。妊娠14週~16週ごろです。胎盤は成長する臓器。おなかの赤ちゃんが大きくなるにつれて栄養もたくさん必要になるため、胎盤も徐々に大きく、重くなっていきます。
お産を終えて、体外へと排出されるときの胎盤は、直径約20~30cm、厚さ2~3cm、重さ500~600gほどになっています。
胎盤の中をのぞいてみよう
胎盤は無数の血管の集まりです。その先には絨毯の毛のような細かな絨毛が密生していて、中隔(ちゅうかく)と呼ばれる仕切りもあります。
絨毛のまわりには空間があって、ここは母体の血液で満たされています。ここが、酸素や栄養、老廃物の受け渡し場所です。絨毛の中には毛細血管が走っていて、母体の血液から酸素や栄養分や水分を吸収して胎児へと送ります。胎児のほうでも不要になった老廃物を排出して、ママの体へと送ります。
胎盤剥離はどう起こる?
癒着等の胎盤トラブルはどんなものがある?
胎盤のトラブルには、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、癒着胎盤などがあります。発生の割合は低いのですが、妊娠中のリスクとして知っておきましょう。
前置胎盤
胎盤は通常、子宮口と離れた子宮の上部にあるのですが、胎盤が子宮口を覆うような位置にあるのが、前置胎盤です。また、子宮口をふさいではいないものの、それに近い状態にあるのが、低置胎盤です。
前置胎盤では、胎盤から出血を起こしやすく、流産・早産のリスクが高いので、慎重に経過を観察していきます。
常位胎盤早期剥離
「胎盤剥離(はくり)」とは、胎盤が子宮からはがれること。通常であれば、胎盤は赤ちゃんを産んだあとに自然と子宮からはがれ落ちて、体の外に排出されます。
ところが、まだ出産が始まる前(早期)に胎盤がはがれてしまうことがあります。すると、赤ちゃんへ栄養が届かなくなるばかりか、胎盤がはがれた部分から大量に出血してママの命にかかわることもあるのです。また全身の血液が固まらなくなったり、多臓器不全を起こしてくることがあり、とても恐い病気です。
「常位胎盤早期剥離」は、胎盤が問題のない正常な位置にあるのに、早い段階で、剥がれてしまう病気です。妊娠後期になって、それまで順調な経過だったのに、突然、出血が起こったり、お腹が異常に張ったりしたときには、常位胎盤早期剥離の可能性が考えられます。救急車を呼び、すぐに受診しましょう。
癒着胎盤
ごく稀なケースに「癒着胎盤」があります。胎盤が子宮の筋肉にくい込んでしまい、赤ちゃんが出た後に、はがれてこないのです。癒着の程度や状態によりますが、無理にはがすと大出血になる可能性があります。
癒着胎盤は前置胎盤と合併するリスクが高いので、前置胎盤の場合は慎重に観察していきます。癒着胎盤が疑われれば、この場合は帝王切開による出産となるでしょう。しかし、出産をして、胎盤が出てこないことから発覚するケースもあり、その場合は緊急対応が必要になることもあります。
胎盤が発育する妊娠中期~妊娠後期が大切!
胎盤が完成すると、俗に安定期と呼ばれる中期に入ります。胎盤はこの時期から、ますます充実。胎盤完成の妊娠4ヶ月頃、約100gだった胎盤は、その後どんどん成長して、最後には約500gにもなるのです。
妊娠中に安定期はないと思って過ごしてください。妊娠中期から後期は、胎児もいっしょにぐんぐん大きくなっていく時期です。だからこそ無理は禁物! この時期に胎盤がしっかり成長できないと、酸素や栄養補給がうまくいかず、胎児も大きくなれません。健康な胎盤を維持するためにも、無理はしないで、十分に休みをとりながら過ごしましょう。
妊娠42週を過ぎると、胎盤は衰えてくる?
胎盤には寿命があり、妊娠42週に入るとちょっと問題が出てきます。この頃から胎盤が衰えてくる可能性があるのです。胎盤機能が落ちると、赤ちゃんに充分な酸素や栄養が送れなくなります。胎盤の血管が詰まって、赤ちゃんが弱ってしまうこともあります。
胎盤機能が低下していると疑われたら、陣痛促進剤を使ったり、緊急の場合は帝王切開をしたりして、赤ちゃんが外の世界に出られるように助けます。
胎盤を食べる人がいる?
「胎盤を食べると体にいい」などという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、これはいわば都市伝説のようなもの。哺乳動物の中には、自分の胎盤を食べる動物もいますが、動物には、匂いを消して敵から身を守るとか、栄養補給の意味があるのかも知れません。しかし、食べ物も豊富な現代の人間にとって、医学的に食べる意味はありません。
かつて地方の土着的風習から食べていたことはあるようですが、現代では世界的に見ても先進国でそのようなことはありませんし、日本産科婦人科学会でも推奨していません。また、胎盤(プラセンタ)には若返り効果があるといわれていますが、じかに食べたりつけたりしても、プラセンタのエキスを直接吸収することはできません。
健康な胎盤を作ろう!
妊娠高血圧症候群に気をつけて
妊娠時に高血圧症を発症するのが、「妊娠高血圧症候群」です。妊娠20週以降に高血圧のみを発症すると妊娠高血圧症、高血圧と蛋白尿がある場合は妊娠高血圧腎症と診断されます。こうなると、毛細血管が変性するなどダメージを受けるため、子宮から胎盤に栄養分を送る血液が流れにくくなります。すると当然、胎盤機能が低下してしまいます。
妊娠高血圧症候群を予防するには、体重をしっかり管理して太り過ぎないこと、塩分を控えること、そして過労やストレス、不自然な運動も避けることです。
むくみにも注意!
体のむくみにも気をつけてください。とくに全身のむくみは、その後の血圧上昇につながることがあるので、注意が必要です。体がむくむということは、産道もむくむということ。安産のためにも、塩分控えめ。身体に余分な水分をためないよう、心がけてください。
たとえば、ふくらはぎを下から上に向かってマッサージして、リンパや血液の流れをよくしましょう。それでもむくみが軽減しない場合は、医師に相談してください。
また、カリウムには、余分な塩分(ナトリウム)を排出する力がありますから、カリウムを多く含む昆布やひじき、キウイ、バナナ、納豆などの適度な摂取もおすすめです。
血液サラサラで赤ちゃんに栄養を
胎盤は血管の集まりですから、血液がドロドロだと血管がつまりやすくなり、赤ちゃんに酸素や栄養が届きにくくなります。サラサラのいい血液を作るのに働くのは、ビタミンE。血中の過酸化脂質を分解してくれます。
ビタミンEは、お豆腐などの大豆やナッツなどの豆類、緑黄色野菜、タラコやサケにも多く含まれています。毎日の食生活に取り入れていきましょう。
胎盤のギモンQ&A
若い妊婦の胎盤はきれいで、高齢出産だといまいち、なんて聞いたことがあるけれど、本当ですか?
そんなことはありません。高齢出産だと妊娠高血圧症候群などのリスクが高くなるので、そうした誤解が生まれたのでしょう。どんなに若くても妊娠高血圧症候群などにかかれば、胎盤への血流が悪くなるので、いい胎盤ができにくくなります。いい胎盤を作るために大切なのは、健康的なマタニティライフを送るように努力することです。
前置胎盤と言われたのですが、帝王切開になるのですか?
ケースバイケースです。胎盤が子宮の出口にかかるようにできてしまうのが前置胎盤。位置によって辺縁前置胎盤、部分前置胎盤、全前置胎盤などと分かれています。帝王切開になるかどうかは、経過を見ながら判断していきます。また、妊娠初期や中期に前置胎盤が疑われても、子宮が大きくなるにつれて上の方の正常な位置に変位していく場合もあります。
前置胎盤の場合、子宮に面した部分がはがれて突然、大出血を起こし、母子の命にかかわることがあるので、ドクターとともに慎重に経過を診ていきましょう。
常位胎盤早期剥離について教えてください
胎盤の位置は正常でも、突然胎盤の一部がはがれてしまう病気です。赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまうのですから、胎児への酸素や栄養もストップしてしまいます。また、母体にも大変な異常が起こり、母子ともに命にかかわります。
おなかが硬くなって激痛に襲われることが多く、出血がある場合とない場合があります。妊娠高血圧症候群になると常位胎盤早期剥離にかかりやすいといわれていますが、そうでなくても突然、起こることがあります。予測がつきにくい病気なので、胎動が感じられない、おなかがパンパンに固くなったなど、何かおかしい?と感じたら、すぐに病院へ。緊急のときは救急車を呼びます。
胎盤は胎児とママとの命の架け橋です。健康的なマタニティライフを送っていい胎盤を作り、元気な胎児を育てて、出産を迎えましょう!
update : 2020.06.22
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