妊娠中のスポーツはあり?なし?【妊娠中のスポーツ】

マタニティスイミングにマタニティヨガ、フラ、ピラティス、エアロビ……世の中、妊婦スポーツ、妊婦エクササイズが花盛り。でも、妊娠中の運動は本当にした方がいいの? どんな効果があるの? 赤ちゃんに影響はないの? そんな揺れる“妊婦ゴコロ”に、妊婦スポーツの安全管理の専門家でもある産婦人科医、中井章人先生が応えてくれました。
監修者プロフィール
中井章人(なかいあきひと)先生
昭和58年、日本医科大学卒業。日本医科大学教授。日本医科大学多摩永山病院副院長、女性診療科・産科部長を経て、2018年より同病院院長。日々の診療のかたわら、『周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理』などの著書を手がけたり、周産期医療の分野で政策の課題解決にも尽力する。
妊娠がわかったら、 スポーツはやめるべき?
お腹に命が宿っていると思うと、息をするのも慎重になってしまうマタニティ時代。くしゃみで腹筋を使っただけで、赤ちゃんが出てきちゃうのでは!? と気になってしまうのに、スポーツを続けるなんてめっそうもない話、なのではないかしら……?
「そんなこと、ないです(笑)」とあっさり否定するのは、妊婦スポーツの専門家でもある産婦人科医、中井章人先生。
「原則的に、妊娠したからといってスポーツをやめる必要はありません。妊娠12週まではそれまでと変わらない運動をしてOK。12週以降は、妊娠前の6~7割ほどに強度を抑えれば大丈夫です。例えば、ジョギングで5キロ走っていた人は、3キロくらいに抑えるというイメージですね」
え…、妊娠初期って流産しやすい時期ですよね? 大事にして過ごせって、周りからもすごく言われるんですけれど……。
「妊娠12週までは、運動するしないに関係なく、染色体の異常などで15%くらいの方が流産します。ですから、特に行動を制限する必要はありません。一例をあげると、アイスホッケーは非常にコンタクトの強い競技ですが、カナダの女子プロチームの規定では、妊娠12週までは普通に練習や試合に参加するように、と定められているんですよ」
うそっ! あの激しいアイスホッケーもOKとは……! 両目からウロコがボロボロと落ちるような話です。
妊娠してから 新たに始めるのは、要注意
では、中井先生、妊娠前に運動をしていなかった人は、どうなのでしょうか?
「慣れていない競技や、インストラクターが管理をしないものは、転倒や事故などのリスクをともなうので、やめたほうがいいでしょうね。妊娠を機にわざわざ新しいことを始めるのではなく、ウォーキングなど日常の中でやれるものがおすすめです」
とはいえ、なにか運動をしてみたい、始めてみたいという気持ちもあるのですが、その場合はどうしたらいいでしょう。
「やはり、妊娠12週以降をおすすめします。妊娠12週までの流産は運動に関係ない、原因は胎児側の因子によるものだから、と言いました。しかし、流産したときにご自分を責める方がいらっしゃいます。わざわざ流産率の高い時期にあえて、新たな運動を生活に取り入れる必要はないと思うからです」
そうなんですね。わかりました。先生のお話を聞いていると、妊娠中って、思っていたよりも動いていいのかな……という気がしてきました。
「体重管理の観点からも、運動は推奨されています。そもそも、妊娠とスポーツの研究が始まったのは1970年代。当時ベビースイミングが流行っていたのですが、スイミングのインストラクターやいっしょに泳いでいる母親が妊娠したらどうすればいいか、というところから研究が始まったのです」
当初から、“妊娠中でも水泳はできるだろう”という仮説が立っていたといいます。
「海で活躍する海女(あま)さんたちは、みんな分娩直前まで漁に出ているわけですからね」
なるほど、海女さん!! 言われてみれば確かにそうですね!
「かつては、妊婦が運動をすると子宮収縮を起こして流産早産を誘発する、という考えが支配的でした。確かに“流産、早産しやすい妊婦が運動をする”ことは流産、早産につながりますが、そうでない健康な妊婦の場合は、運動によって子宮収縮が促されるわけではないことが研究でわかっているのです」
安産のためじゃない、 産後の4つの効果
「運動するとお産が軽くなる」と聞きますが、実際はどうなのでしょう?
「運動と分娩の因果関係は証明されていません。運動していても難産になることがあるし、運動していなくても安産である場合も多く、正確に比較できるだけのデータがないのです」
そう…、なんですね。運動イコール安産、とは限らないのですね。ちょっとガッカリ…。
「マタニティスポーツの“効果”が出てくるのは、分娩ではなく、産んでからなのです。産後の疲労回復や母乳の出など、4つの効果があったことが、科学的に証明されています」 。
妊娠中に15週以上、運動していた人の産後効果
- 産後の疲労回復が早い
- 母乳の出がよい
- 産後の骨密度が保たれる
- マタニティブルーの発生率が低い
なるほど! 妊娠に運動すべき理由は、こういうことだったのですねーっ!
たしかに出産はゴールでなくスタート。妊娠よりも分娩よりも、「育児」は長期間にわたる人生の大仕事。なによりも体が資本のこの育児期を乗り切るために、妊婦時代に体をつくっておくことが、重要なんですね!
こんなとき、 こんな妊婦はスポーツNG
さて、妊娠中のスポーツが産後に効力を発揮することはわかったけれど、誰もがスポーツをしていいというわけではありません。日本臨床スポーツ医学会では、妊婦スポーツの安全基準を以下のように定めています。チェックしてみましょう。
妊婦スポーツの安全基準をチェック
母・胎児の条件
- 現在の妊娠が正常で、過去の妊娠に早産や3回以上繰り返した流産がないこと
- 単胎妊娠で、胎児の発育に異常がないこと
- 妊娠がわかってからスポーツを始める場合は、原則として妊娠12週以降で妊娠経過に異常がないこと
スポーツをしてはいけない症状
- 心疾患
- 前置胎盤
- 頸管無力症
- 破水
- 出血
- ※妊娠高血圧や妊娠糖尿病、貧血や甲状腺などの疾患がある人は、必ずメディカルチェックを受けて医師の許可をもらうこと。
スポーツを中止するめやす
- 痛み・出血がある
- めまいがする
- 失神する
- 急な動悸・息切れ
運動強度のめやす
心拍数で150bpm以下、自覚的な運動強度は「ややきつい」と感じるまで。
健康のため、赤ちゃんのため、産後の体力をつけるための運動がアダとなってしまっては、元も子もありません。とにかく気になることはドクターに相談してください。自覚症状がなくても、今の状態が運動に向いているのか向いていないのか、判断できるのはドクターだけなのです。
マタニティスポーツ、 安心安全5か条
最後に中井先生から、安心してマタニティスポーツを行うためのポイントを5つあげていただきました。
マタニティスポーツ安心安全5か条
1.あおむけのポーズは避けて
お腹が大きくなってくると、仰臥位(あおむけ)のポーズを取ることで「仰臥位低血圧症候群」になることがあります。これは、赤ちゃんの重みで血液の循環が悪くなるため。あおむけのままでいると血圧が下がることがあるので、避けましょう。
2.ストレッチはがんばりすぎない
妊娠すると関節をゆるめるホルモンが分泌されます。関節の可動域が妊娠前よりも広くなっている状態のため、ちょっと力を加えただけで思わぬ方向に曲がってしまうことも。関節をいためやすくなっているので、がんばりすぎないように!
3.運動後は安静にして胎動チェック
運動が終わったら30分ほどソファなどにゆったりと腰を下ろし、胎動を確認しましょう。30分~1時間の間に1回でも赤ちゃんが動けばOK。それまで頻繁に感じていた胎動が感じられなくなったという場合は、すぐに病院を診察しましょう。
4.炎天下を避け、水分補給を十分に
母体の体温の上昇は、胎児に影響があることがわかっています。体温が上昇しすぎる「熱中症」を防ぐため、皮膚温よりも高い気温の日や、直射日光があたる中での屋外スポーツは避けましょう。水分をしっかりと補給して、熱の発散も促します。
5.夜の運動はなるべく避けて
夕方から夜はお腹がはりやすい(=子宮が収縮しやすい)時間帯。スポーツをするときは、なるべく10時から14時ごろの日中に。頻度は週2~3回くらい、60分程度でとどめておくのがポイントです。
update : 2020.03.05
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