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高齢出産は何歳から?リスクやメリット、注意点を徹底解説

高齢出産は何歳から?リスクやメリット、注意点を徹底解説

昔に比べて高齢出産になるケースが増えていますが、「高齢出産」というとハイリスクのイメージがあるため、赤ちゃんを授かった喜びも束の間、不安にかられてしまうという妊婦さんも少なくないようです。そこで、高齢出産に関する基本的なことから、実際、高齢出産にはどのようなリスクが潜んでいるのか?など、知りたいと思っている疑問を、産婦人科医、松峯美貴先生(東京都江東区・東峯婦人クリニック)にうかがいました。

監修者プロフィール

松峯美貴先生
東峯婦人クリニック

聞きにくいような悩みも打ち明けてもらえるような身近な外来をめざし診療を行う。女性のための美容外科・形成外科・美容皮膚科・美容産婦人科を手がける。日本産婦人科学会認定専門医。2001年東邦大学医学部卒業。2006年東京女子医科大学大学院修了。「ウェルネス東峯」を開設。

高齢出産とは?何歳から?

35歳以上の出産が高齢出産

35歳以上で初めて出産することを一般的に「高齢出産」と呼んでいます。一定の年齢以上での妊娠・出産を高齢出産として区別するのは、体力や身体機能には個人差が大きく関与するものの、一般的には30歳を超えたころから妊娠・出産にともなうリスクが徐々に高くなるため妊婦さんや医療機関に注意喚起を促しています。

日本では女性の社会進出が進むにつれ、晩婚化が増えてきました。厚生労働省のデータでは、平均初婚年齢は長期的にみると男性、女性ともに上昇を続け、晩婚化が進行しています。2023年(令和5年)で、男性が 31.1 歳、女性が 29.7 歳に。約40年前(1985(昭和60)年)と比較すると、男性は2.9歳、女性は5.6歳上昇しています。そして、晩婚化にともない出産も遅くなってきています。近年では35歳以上での出産も珍しいことではなくなりました。また、不妊治療が進歩した結果、高年初産が増えたという面もあるでしょう。しかし、気をつけなければならない点はあります。待ちに待った赤ちゃんを迎えるためにも必要な知識を身につけておきましょう。

高齢出産は増えている?高齢出産の実情

女性の生き方の多様化や社会進出などにより、日本では年々女性の初産の出産年齢が高くなってきています。厚生労働省「2023年人口動態統計」によると、2023年(令和5年)の高齢出産数は、出産した女性の約30%を占めていました。また、国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集』(2024年版)の、1975年、1990年、2005年、2020年の「女性の年齢(各歳)別出生率」をみると、出生率が最も高い年齢が1975年では25歳だったのに対し、2020年では31歳と、近年は20~29歳の各年齢階級では低下、30歳以上は上昇傾向にあります。

高齢出産は現代では決して珍しいことではありません。リスクにばかり目がいきがちですが、リスクはあくまで確率の問題であり、年齢だけでなく個人の体力や体質に左右されるものです。後述するように、社会的、精神的に成熟した年齢で出産することのメリットもあります。体力的な面でのリスクをできるだけ回避するためには、まずは、食生活や睡眠時間など健康的な生活を心がけ、できるだけリラックスして過ごすことが大切です。

女性の年齢別出生率

高齢出産による4つのリスク
ダウン症になりやすいは本当?

妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病などになる確率が高まる

たとえ妊娠していなかったとしても、年齢が高くなると高血圧や糖尿病、心臓病などの生活習慣病の発症率は高まります。そこに、妊娠という大きな負荷がかかると、35歳以上の妊婦さんの方が、「妊娠高血圧症候群」「妊娠糖尿病」になる割合が増えるのは当然といえます。

【妊娠高血圧症候群】

妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に高血圧(収縮期血圧が140mmHg 以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上)を発症した病気のこと。昔は「妊娠中毒症」と呼ばれていましたが、2005年に呼び方が変わり、2018年には定義も見直されました。妊娠前または、妊娠20週までに高血圧を発症した場合を「高血圧合併妊娠」、妊娠20週以降から分娩12週までに高血圧のみが発症する場合は「妊娠高血圧症」、妊娠20週以降から分娩12週までに高血圧を発症し、蛋白尿をともなったり、肝機能障害や腎障害などを発症した場合は「妊娠高血圧腎症」などに分類されます。

  • ※1
    収縮期血圧(最高血圧)…心臓が収縮して血圧が動脈に押し出されたときに、血管にかかる圧力のこと。
  • ※2
    拡張期血圧(最低血圧)…心臓が拡張して戻ってきた血液をためているときに、血管にかかる圧力のこと。

【妊娠糖尿病】

妊娠をきっかけに糖尿病になるのが妊娠糖尿病です。今まで糖尿病とは縁がなかった人でも発症することがあります。妊娠糖尿病になると、羊水過多やさまざまな合併症が起こりやすく、巨大児、低出生体重児など、赤ちゃんにも影響を与えることがあります。早期発見と適切な対処をする必要があります。

妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病は、もともと肥満傾向の人、塩分やカロリーの多い食生活を送っている人などに発症しやすい傾向があります。リスクを軽減するためには、栄養バランスを考えたうえで、塩分を控え高タンパク・低カロリーにするなど食生活に気を付けることが大切です。

妊娠中の食生活は量より質を重視して、いろいろな食材を選んで調理しましょう。野菜を多めに取り入れるとカロリーが抑えられます。食事のときは野菜から先に食べるようにすることで、血糖値の急上昇を抑えることができ、食べ過ぎを防ぐこともできるでしょう。料理にだしや酢を取り入れることで塩や砂糖を控えることができるので、工夫してみてください。

また、無理のない範囲で運動を心がけることで、リスクを下げるだけでなく、生まれてくる赤ちゃんの健康を守ることにつながります。高年初産の妊婦さんは、不妊治療の末に赤ちゃんを授かった人も少なくないかもしれません。その場合、身体を大事にするがあまり、運動はしないで家で静かに過ごしているという妊婦さんもいます。医師から安静にするように指導されていないのであれば、適度に安産体操やウォーキングを行いましょう。毎日続けることで、お産に向けての体力づくりにもなります。また、外出することでリフレッシュでき、ストレス発散にも効果的です。このように、生活の中で工夫をすることで予防にもなる可能性が高いのです。

流産や早産の確率が上がる 難産になりやすい

早産とは正期産(妊娠37週0日~妊娠41週6日まで)以前に赤ちゃんが生まれることをいいます。日本では妊娠22週0日~妊娠36週6日までの出産を早産、妊娠22週未満の出産は流産といいます。高齢出産の場合、流産や早産などのトラブルが起きる確率が高まります。

流産になるのは、胎児に妊娠を継続できない原因があって起こるケースがほとんどです。精子と卵子の染色体が結合して受精するときに、染色体に傷がついて、不分離が起きることがあります。それでも多くは、修復しながら大きくなっていきますが、修復されきれずに成長できなくなったものが流産です。染色体異常の場合は、受精した段階で流産の可能性がかなり高かったということです。また、母体が持っている卵子は、年齢を重ねるうちに少しずつ老化していくため、そのことも流産率を高くする要因のひとつだと考えられています。

【軟産道強靭(なんさんどうきょうじん)】

赤ちゃんが生まれてくるときに通る産道やその周囲の血管(子宮頸管)、子宮口は、体質に関わらず母体が高齢になればなるほど硬くなってしまうため、赤ちゃんがなかなか下りてこられなくなることも。そのため、お産に長い時間がかかり、母子ともに大きな負担がかかってしまいます。

予防のためには、無理のない範囲でマタニティヨガやストレッチなどを行い、骨盤のまわりの筋力を鍛えて骨盤を広げておくとよいでしょう。

染色体異常の赤ちゃんが生まれる確率が高まる

出産年齢が上がると染色体異常の赤ちゃんが生まれる確率が増えます。なかでもダウン症の赤ちゃんが生まれる確率は25歳で1250人に1人(0.08%)、30歳で952人に1人(0.11%)、35歳で385人に1人 (0.26%)、40歳で106人に1人(0.94%)、45歳になると30人に1人(3.33%)と、統計的にも年齢が上がるにつれ増加し、特に40歳代に入ると急増していくことがわかっています(出典:厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会 報告書(2013年)」)。

ダウン症は、23対の染色体のうち21番目が1本多い染色体異常のこと。ダウン症児は健常児と比べると知能や運動能力の発達が遅れる、ある種の病気にかかりやすいなどがあります。ただし、たとえダウン症児であっても、その症状の程度には個人差があり、親をはじめとする周囲のかかわり方やサポート、適切な療育環境があれば、その子なりに能力を伸ばして育ちます。ダウン症児が生まれる原因は現時点で解明されていないため、高齢出産でなくても生まれることはあります。

産褥期のトラブルが多い

産後、妊娠に伴い大きくなった子宮が元の大きさに戻り、心身ともに妊娠前の状態に戻るための大事な時期で、その期間は6~8週間と言われています。高齢になると、産婦自身が若い頃より体力が落ちているのに加え、ママ・パパの両親がさらに高齢のため、実家からの育児のサポートが受けにくい状況も少なくありません。それにより母体回復が遅れがちで、子宮復古不全(子宮の収縮が悪く、元の大きさに戻らない)になりやすい傾向があります。

母体疲労は、乳汁分泌不全(おっぱいが出ない)や、産後うつにもつながるので、出産という大仕事をして疲れた体を労わる準備も必要です。ママ・パパだけですべてをこなそうとせず、ファミリーサポート、産後ケアサービスなどの公共・民間のサービスを積極的に利用して、乗り切りましょう。

高齢出産の3つのメリット

前章で高齢出産のリスクについて説明しましたが、高齢出産だからといって、すべての妊婦さんが難産になるわけではありません。35歳を過ぎても安産の人はたくさんいますし、たとえ20代で出産しても難産になる人はいます。20代の妊娠・出産に比べて注意が必要で、分娩時に多少のリスクはありますが、きちんと自覚して回避できれば、高齢出産であることのメリットもたくさんあります。

仕事の経験を積んだあと出産と子育てができる

高齢出産の人は、長い間、仕事を続けたなかで、さまざまな分野を学び、経験を積むことができた人が多い傾向にあります。仕事のキャリアもある程度あり、好きなこともやり尽くした後、人生の半ばで出産を迎えることができるため満足度が高い人が多く見受けられます。

精神面でゆとりがある

高齢出産の人は、仕事を持っている人が多く、これまでに多くの人に出会い多種多様な価値観にふれることで、若いころよりさまざまな考え方を受け入れることができるようになります。育児は自分の思い通りにいかないことの連続ですが、そんなときも、赤ちゃん優先で子育てを楽しむことができるようです。また、友人などすでに出産経験を持っている人が多く、育児の体験談を聞くことができるので、精神的に余裕を持って育児に取り組むことができます。

経済的に余裕がある

高齢出産の夫婦やカップルは、それまでにある程度の社会的地位や経済力を付けている人が少なくありません。経済力は子育てにとって大きなメリット。高齢出産の場合、産後の身体的回復に時間がかかりますが、無理はせずに、ベビーシッターや託児施設を利用して体力面での不足を経済力で補い自分の身体を休めましょう。一方で、子どもが成人する前に定年退職を迎えるケースもあるので、教育資金の貯蓄はきちんとしておきましょう。

高齢出産に備えて気をつけたいポイントとは?

前述のように、高齢出産には社会的・精神的なメリットもあるとはいえ、母体にとってはリスクが高まる傾向にあるため、35歳以上で妊娠した場合には、健康を保つための心がけが必要です。

妊婦健診に必ず行く

高齢出産にはリスクがあることを心に留めて、決められた妊婦健診は必ず受診するようにしましょう。厚生労働省では、妊娠中の標準的な妊婦健診の回数を14回としています。健診では医師や助産師にさまざまなアドバイスを受けられますので、妊娠中に心配事があったら健診のときに相談してみましょう。

健康的な食事を心がける

血圧や血糖が上がると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病になる怖れがあります。塩分は控えめに、野菜を多く取り入れてカロリーを抑える工夫をしてみましょう。普段よりもいっそう、偏りのない栄養バランスのとれた食事をとるようにしたいですね。

無理のない範囲での運動

妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の予防のためには、無理のない範囲でできる運動もおすすめです。ウォーキングやマタニティヨガなど、主治医と相談して取り組んでみましょう。

ストレスを減らす

妊娠中はホルモンバランスの変化で気持ちが浮き沈みすることがありますが、ストレスはさらなるホルモンバランスの乱れにつながるリスクがあります。軽い運動やお散歩をしたり、仕事では心身ともに負担がかからないように上司と相談したり、家事分担はいつもより家族の協力を仰ぐなど、自分の体を第1に考えてください。

高齢出産は母体だけでなく生まれてくる赤ちゃんにもリスクが高まりやすいのは事実です。しかし、それをきちんと自覚し、生活習慣を整えることで、リスクを回避できる可能性も高まります。また、現在は高齢出産に対する医療技術が急激に進歩していて、昔のように母子が危険にさらされるリスクは減ってきました。落ち着いた年齢で出産することのメリットもあるので、まずは赤ちゃんを授かったことを家族の幸運ととらえ、母子ともに健康な状態で出産できるようにしましょう。

監修・取材協力/東峯婦人クリニック 松峯美貴先生

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update : 2024.12.26

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