シミ・黒ずみ・かゆみに「皮膚科式保湿」
妊娠してから増えたような気がするシミやそばかす。体をよく見てみると、脇の下や乳首も黒ずんできたし、吹き出物ができやすくなった気も……。
妊娠中は体にさまざまな変化が起きますが、肌もその1つ。でも、妊婦だからとあきらめてケアを怠ってしまうと、さらにひどくなってしまうかもしれません。
肌トラブルに悩んだら、あきらめたり自己流でケアしたりせずに皮膚科へ。スキンケアとは関係ないように思うかもしれませんが、そんなことはありません。
『くぼ皮膚科クリニック』院長の久保佳多里先生に、妊娠中の肌トラブルの原因や対処法を伺ってきました!
取材協力・監修
くぼ皮膚科クリニック院長
皮膚科医・美容皮膚科医
久保佳多里(くぼかおり)先生
自身の子育てや介護の経験を生かし、患者と家族の立場に立った診療を目指す。一般皮膚科だけではなく最新の機器を使用した美容皮膚科も併設。湿疹、アレルギー等の一般皮膚科の相談からプロペシア(男性型脱毛症)、巻き爪ワイヤー法など自費診療皮膚科、各種レーザー治療やケミカルピーリングなど美容皮膚科まで幅広い相談に応じている。
シミからかゆみまで、肌の悩みは皮膚科へGO!!
…えっ?シミが増えたからって、病気でもないのに皮膚科にかかっていいんですか?かぶれたとか、炎症を起こしたとか、かゆくてたまらないとか、あきらかな異変でなくてもいいんですか?
「もちろん!むしろ、そのような症状が出る前に来ていただきたいです。妊娠中、薬はできるだけ使いたくないですから。早め早めに予防して、改善していきましょう」というのは、くぼ皮膚科クリニック院長の久保佳多里先生。
そ、そうなんですね!「見た目的に気になる」という段階でも、皮膚科に行っていいなんて、いきなり目からウロコです!!
「だいたいですね、皮膚科医から見ると、皆さんが日々やってらっしゃるスキンケアは、根本から間違っています(笑)。ディープなクレンジング、しっかり塗り込む基礎化粧…。お肌を守るためでなく、まるでダメージを与えるためにやっているみたい。そら、黒ずみますわ、シミもできますわ、という感じ。肌本来の生理に即した正しいスキンケアの指導を受けられるのが、皮膚科にかかる最大のメリットだと思いますよ」
関西弁まじりの親しみやすい口調で、にっこり微笑みながらお話しくださる久保佳多里先生。頼りになりそう!!
妊娠すると、なぜ「肌」が変わるの?
妊娠すると、なぜシミが増えたり、あちこち黒ずんだりするのでしょう。とても不思議です。
「ホルモンの影響ですね。妊娠中は、エストロゲンやプロゲストロンといったさまざまなホルモンの分泌が急激に増えます。これらのホルモンはどれも、“メラノサイト”という細胞を活性化する働きを持っているのです」
メラノサイトは、皮膚を守るために色を作る細胞。いわばシミのもと。体にとっては悪いものではなく、紫外線などから皮膚を守っているのです。
「ホルモンがたくさん出ている妊娠中は、ちょっとした刺激でシミができやすい状態になっているんです。お顔のシミやそばかすだけでなく、脇の下や脚の付け根、乳首や正中線などが黒ずんでくるのも、メラノサイトが活性化していることによる変化です」
やっぱり!妊娠してからのシミ増加、黒ずみは、気のせいじゃなかったんですね!!とはいっても、あまりうれしくない変化。なんとかなりませんか?
日焼け止めはこまめに塗る。ファンデの上からもOK!
「シミは、とにかくこれ以上“作らない”こと!妊娠中はシミ対策のお薬を飲むことができませんからね」
シミを作らないために、できることは2つ。
1つは、UVケア。日陰を歩いたり、傘や帽子をかぶったりして、できるだけ紫外線を浴びないこと。そして日焼け止めをしっかり塗ること。
「日焼け止めは、下地がわりに1回塗って終わりじゃないですよ。日中もファンデーションの上から繰り返し塗ってください。可能なら1時間に1回くらい塗り直しましょう」
ファンデーションの上から、肌の上に日焼け止めを置いていくように、指の腹でそっと塗ってくださる久保先生。ポン、ポン、ポン……、ポン、ポン、ポン…。わ、わたくし、こんなにソフトなタッチで自分の肌にふれたことがありません…!
先生~!気持ちいいです~!
「指を肌の上で縦横にすべらせないでくださいね。せっかく皮膚の上に載っているファンデーションや日焼け止めが、皮膚の表面の溝に入り込んだり、取れてしまいます。指の腹で肌をやさしく包み込むように、ポン、ポンと載せていくのがコツです」
日焼け止めの効果を表す数値にSPFがありますが、数字が大きいほうがいいとは限りません。数字が大きいと肌に負担がかかります。おススメはSPF30前後。肌への刺激が強い紫外線吸収剤が入っていないものを選びます。
「“すっぴん”というのは、何もしないではなく、保湿して日焼け止めまで塗ってのすっぴん、と私はつねづね言っています。たとえ外に出ない日でも、紫外線は、窓を通して室内に入り込みます。日焼け止めは常に手元において、気がついたらこまめに塗り直してください」
こすり洗いは、色素沈着のもと。垢は天然の保湿成分。
そして、シミをつくらない2つめのポイントは、「こすらないこと」。
「フリクション=こする、という行為は、色素沈着を招く一番の原因です。シミやそばかすができやすい場所をよく見ると、頬骨など、ちょっと高くなっていて、指の力がかかりやすい、こすれやすい部分が多いでしょう?」
ほんとですね!
「脇の下や脚の付け根に色素沈着が多いのも、同じ理由です。妊娠中は、ホルモンの影響で嗅覚が過敏になるせいもあり、ニオイや汚れが気になって、ついゴシゴシこすってしまう人が多いんです。でも、ただでさえメラノサイトが活性化しているときに、こうした刺激を与えると、一気に色素沈着してしまうのです」
『フリクション』という、こすると消えるペンがあるけれど、肌の場合は逆!こすればこするほど消えないどころか、濃くなってしまうんですね。
「洗顔や入浴時は、お湯の中でやさしく肌を撫でるくらいでOK。どうしても石けんをつかいたいときは、泡で肌を包み込むくらいにしましょう。ナイロンタオルでゴシゴシ!なんてもってのほかです。石鹸はネットなどできめ細かい泡を作って、その泡を手のひらに取って、肌の上をやさし~くやさし~く、泡をすべらせる程度でいいんです」
でも…、うーん…、それで体の汚れは取れますか?皮脂などが残って体臭の原因になってしまいそうです。
「“垢(あか)も身のうち”ですよ。垢は悪いものではなく、天然の保湿成分だと思ってください。逆に取りすぎると、乾燥から皮膚を守ろうとして、過剰に皮脂を分泌してしまう…という悪循環が起こるのです」
かゆみ、吹き出物…に、皮膚科医的「保湿」の基本
妊娠後、かゆい、吹き出物が増えた、という人も多いのですが、なぜなのでしょう?
「ホルモンのせいで皮脂が増えているということもありますが、乾燥による皮脂バランスの崩れが原因となっていることが多いですね。みなさん、クレンジングしすぎ、洗いすぎです。しかも、保湿が足りていないのです」
“皮膚科的正しい保湿”とは?また“皮膚科的に潤っている”とは、どういう状態をいうのでしょう?
「それを知るためにも、ぜひ皮膚科に行っていただきたいですね。皮膚科で処方する保湿用のクリームなどを使って、ぜひ一度体験して欲しいです」
皮膚科に行くと、保険適用で処方される保湿剤がこちら。「ヘパリン類似物質」といわれる、乾燥肌や皮脂欠乏症の治療で有名な処方薬です。有名なのは「ヒルドイド」(②、⑤、⑥)で、天然保湿成分のミツロウを含みます。「ビーソフテン」(①、③、④)は価格が安いジェネリック医薬品。
塗る量のめやすは、手のひら2枚分の皮膚面積に対して、指の第1関節くらいの長さ(0.5g)のクリーム量。「ワンフィンガー、ツーハンド」と覚えます。
1FTU(ワン・フィンガー・ティップ・ユニット)は「指先分」という意味の単位。軟膏類を塗るときの単位なので覚えておくと便利!
保湿は、お風呂上り直後に!絶対にすり込まない!
1FTUの保湿剤を指に取り、肌にペタペタペタ。手のひらを使って、のせるように広げていきます。ポイントは、絶対に伸ばさない!すりこまない!こと。うっすらと白さが残ってるくらいでOK。塗ったあとにティッシュ1枚くっつくくらいが、最適な状態です。
最初はちょっとべたつくかな、と思っても、ほどなくして肌に浸透。たった1回塗っただけでも、しっとりもっちり。肌の質感まで変わった感じ。これが「潤ってる状態」なんですね!
「この保湿剤は、全身どこにでも、顔にも使えます。脱衣所に保湿剤を持っていって、お風呂上がりにタオルで水分を軽く拭き取ったら、すぐ塗りましょう。すぐに!がポイントですよ。汗が引いたら…などと待っていると、体からどんどん水分が気化して乾燥してしまいます」
産後は「レーザー治療」も可能。
使える治療薬も増える!
久保先生のクリニックは、皮膚科と美容皮膚科が併設されています。乳児湿疹の相談に訪れた赤ちゃんから、キレイになりたい女性まで、たくさんの患者さんが来院されるクリニックは、いつもにぎやか。
「妊娠中や子育て中でも、キレイでいたい!そんな気持ちに罪悪感を持つことはありません。逆に、キレイでいなくては!と焦る必要もありません。命を育てている女性は、それだけで美しい存在なのですから」
子育ての経験も介護の経験もある久保先生。妊娠中の繊細なメンタルに寄り添ってくれるアドバイスは、同じ道を経験してきた女性のお医者さんならでは。
「それでもやっぱりシミが気になる、というときは、産後にレーザーで一掃するという手もあります。お仕事復帰を控えて、育休中に治療に来られる方もいらっしゃいます」
レーザー治療は、妊娠中はNGですが、出産が終わればOK。さらに授乳が終われば、肝斑などのシミの治療薬も飲めるようになります。
「ステージが変われば、とれる対策も手段もどんどん増えていきます。だから、妊娠による肌の変化を、どうかネガティブに捉えないでくださいね。人生にそう何度もない“マタニティ”という貴重な時間を、たっぷりと味わってほしいな、と思います」
update : 2016.01.06
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