妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)って?症状や原因は?
妊娠すると、ママの体に負担がかかることで妊娠高血圧症候群になることがあります。重症になると、ママとおなかの赤ちゃんに対するリスクが高くなることも。原因や症状、治療法などについて、ハイリスク妊娠に詳しい総合守谷第一病院産婦人科部長の佐々木純一先生に話を聞きました。
監修者プロフィール
佐々木純一先生
総合守谷第一病院
院長代理・産婦人科部長
日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、東京医科歯科大学臨床教授、茨城県立医療大学客員教授、茨城県体育協会スポーツ医科学委員会委員。妊婦さんに対するきめ細やかな診察と優しい対応が評判。
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とは?
・妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧が見られる場合
または
・高血圧にたんぱく尿や全身の臓器障害を伴う場合、また、今後の定義変更で、妊娠前から高血圧がある人
も妊娠高血圧症候群と診断されることになりました。
「高血圧」とは、収縮期血圧(最高血圧)140mmHg以上、または拡張期血圧(最低血圧)90mmHg以上のこと。「たんぱく尿」とは、たんぱくが1日0.3g以上出ている尿のことです。
妊娠中毒症とは違うの?
かつて、妊娠中期以降の妊婦さんに、高血圧、たんぱく尿、むくみのいずれか1つ、あるいは2つ以上の症状が見られたら「妊娠中毒症」と診断していました。
ところが近年、ママや胎児に悪影響を及ぼすのは、「高血圧」が中心であることがわかってきました。たんぱく尿やむくみが単発で現れる場合は、ママや胎児にそれほどのリスクが見られないのです。したがって、慎重に管理すべき「高血圧」を強調するため、2004年に「妊娠高血圧症候群」と名称が変更されました。
妊娠高血圧症候群の原因は?
妊娠高血圧症候群は、妊娠したことで体に負担が増し、母体がうまく適応できない状態です。その原因は、実ははっきりわかっていません。ひとつの仮説として、ママから胎児に酸素や栄養を補給する胎盤がうまく作られないためと言われています。
ではなぜ、胎盤がうまく作られないのでしょうか。それには、免疫が関係していると考えられます。赤ちゃんの遺伝子は、ママとパパから半分ずつもらっているので、母体からすると半分は異物にあたります。パパの遺伝子を異物と見なして免疫機能が働き、内皮細胞を壊す物質が作られて全身の血管を巡り、血管が硬くなってうまく胎盤が作られないのではと言われています。
妊娠高血圧症候群になりやすい人
次に挙げた人は、特に注意する必要があります。
- 初産婦
- 35歳以上
- 多胎妊娠
- 家系に高血圧の人がいる
- 妊娠前から肥満体型
- 妊娠してから体重が極端に増えた
- 高血圧、腎疾患、糖尿病などの病気がもともとある
- 前回の妊娠で妊娠高血圧症候群だった
妊娠高血圧症候群の症状は?
命にかかわるリスクがあるって本当?
妊娠高血圧症候群の症状は、高血圧とたんぱく尿です。自覚症状はほとんどないので、多くは妊婦健診で異常が見つかります。そのため、妊婦健診を定期的に行っていないと、見過ごされて重症化することがあります。
重症化とは、
・収縮期血圧が160mmHg以上、または拡張期血圧が110mmHg以上
のことをいいますが、それ以下であっても下記のリスクがあるので、あなどってはいけません。
重症化したときのママのリスク
・子癇発作(しかんほっさ)
妊娠20週以降に初めて起きたけいれん発作。前兆として、頭痛、目がチカチカする、胃痛といった症状があります。発作が治まらない場合には、 母子の命に危険が及ぶ恐れがあるので、できるだけ早く出産させます。子癇発作は脳出血を併発する場合があり、脳神経外科などとの連携が必要になることも。
・HELLP(ヘルプ)症候群
血液中の血小板が減少し、肝臓機能の低下によって引き起こされる病気です。腹痛や胃痛に伴い、吐き気や嘔吐といった症状が見られます。進行すると、血液が固まりにくくなる、全身の臓器が障害されるなどして母子の命に関わることがあるので、できるだけ早く出産させます。
・常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)
正常な位置にあった胎盤が、出産前にはがれてしまう病気です。性器出血、腹痛、子宮が異常に硬くなる、胎児の動きが少なくなるといった症状があります。赤ちゃんの死亡や脳性麻痺などの高いリスクがあるため、早急に出産させます。また、胎盤のはがれる部分が大きいと出血が多くなり、ママが出血性ショックや凝固障害を起こす可能性も。
「妊娠高血圧症候群ではヘルプ症候群や常位胎盤早期剥離などが恐ろしい合併症ですが、適切な医療管理をしていれば、命を落とすまでに至ることは滅多にありません」(佐々木先生)
重症化したときの胎児のリスク
・胎児発育不全
胎盤から十分な栄養が行き渡らないため、発育や健康状態が悪いこと。
・低出生体重児
体重が2,500g未満で生まれた赤ちゃんのこと。
・子宮内胎児死亡
出産前に、おなかの中で胎児が急に亡くなってしまうこと。
妊娠高血圧症候群の治療法は?
入院は必要?
「妊娠高血圧症候群と診断されたら重症の人はもちろん入院ですが、軽症の人にも入院がすすめられます。いきなり重症化することがあり、病気の進行を予測することが難しいからです」と、佐々木先生は話します。
入院した場合の治療は、
- 降圧剤の投与
- 1日3回の血圧測定
- 赤ちゃんの健康と成長具合をモニタリング
といった母子管理を行います。
この病気の一番の治療法は「妊娠を終わらせること」、つまり出産です。ママと胎児の状態を見ながら、正期産や近い時期に入ったころ分娩誘発します。ただし、重症化してママや胎児に高いリスクがある場合、早期の分娩誘発や帝王切開を判断することもあります。
仕事や家庭の事情で入院できない場合
入院が治療の基本とはいえ、「仕事がある」「上の子のお世話がある」といった理由で、どうしても入院できないママもいるはず。軽症なら以下の生活指導をされ、「自宅で様子を見てください」と言われることもあります。このような場合には妊婦健診は通常よりも短い期間で密に行います。
・安静
寝ている必要はありませんが、最低限の家事だけを行い、無理をせずに家の中で穏やかに過ごします。体を動かす仕事に就いている場合は、できるだけ早めに産休をとってください。心身への過度の負担が最も良くないことです。
・食事療法
以前は食べ過ぎに注意と言われていましたが、近年はやせている妊婦さんの方が目立つようになり、あまり食事制限をしなくなりました。栄養バランスを整え、「必要以上に食べない」ことを意識する程度でよいでしょう。
塩分制限もよく指摘されますが、制限し過ぎはよくありません。1日8g程度が目安です。食事で迷ったら、自治体の保健師や病院の管理栄養士などに相談してみては。
「入院できない妊婦さんには、血圧計を購入することをおすすめしています。自宅で、毎日2~3回測って記録すると安心です。急に重症レベルに上がった、だんだん血圧が上がって下がらないといった場合は入院になります」(佐々木先生)
妊娠高血圧症候群の治療費に保険はきくの?
健康保険
妊娠自体は病気ではないので、妊婦健診や普通分娩では全額自己負担で、保険がききません。しかし、妊娠高血圧症候群では「治療が必要」とされるので、健康保険の対象に。自己負担額は治療費の3割ですみます。
自治体の医療費助成制度
自治体による、妊娠高血圧症候群の入院治療にかかった治療費の一部を助成する制度です。所得制限や入院日数制限などがあり、すべての自治体が実施しているわけでもないので、住んでいる自治体に問い合わせてみましょう。
高額療養費制度
ある一定額を超えたときに、超えた金額が戻ってくる制度です。対象となるのは、健康保険が適用になる治療費と入院費。年収に応じて定められた、1ヵ月あたりの医療費の「自己負担限度額」ですみます。
妊娠高血圧症候群の予防法
「これをしたら予防できる」という、明らかな予防法はありません。栄養バランスのよい食事、規則正しい生活リズムなどに気をつけて、無理をしないことが大切です。「一説には、カルシウムがよいと言われています。カルシウムには、塩分を尿に排泄させ、血圧を低く保つ作用があります。サプリメントなどで摂ることは予防につながるかもしれません。また、最近では、低用量アスピリンや高脂血症の薬が有効であるとの報告もありますが、研究の域を出ていません」(佐々木先生)
産後は血圧測定を習慣に
佐々木先生は、産後について次のように注意を促します。「この病気は、無事に出産が終わっても、将来的に高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症に影響があると言われています。産後も継続して血圧を毎日測る習慣を身につけ、健康管理に気を配るとよいでしょう。赤ちゃんのためには、今後のお母さんの健康がとても大切です」
update : 2018.05.07
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